2006年10月

9月                                         11月
 

10月1日(日)

曇り空の朝。昼からは雨が降り始める。


アダム・フィッシャー指揮オーストリア=ハンガリー・ハイドン管弦楽団の「ハイドン交響曲全集」より、第61番、第62番、第63番「ラ・ロクスラーヌ」を聴く。
この時期になると、ハイドンの交響曲も個性がハッキリしたものが多くなり、今まで以上に聴き応えのあるものが増えてくる。交響曲第63番の「ラ・ロクスラーヌ」とは劇のヒロインの名前だという。
アダム・フィッシャーとオーストリア=ハンガリー・ハイドン管弦楽団の演奏も大変素晴らしい。


オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団の演奏で、ベートーヴェンの交響曲第1番と交響曲第6番「田園」を聴く。EMIのクリスマス・ボックスに入っている「ベートーヴェン交響曲&ピアノ協奏曲全集」の1枚。
ドイツに生まれ、ロンドンのフィルハーモニア管弦楽団の首席指揮者として大活躍したオットー・クレンペラーはイギリスではフルトヴェングラーを上回る程の評価と人気を現在でも誇るという。1960年代に録音された「ベートーヴェン交響曲全集」はクレンペラーの代表盤だ。
交響曲第1番は曲のそれに比べて演奏のスケールが大き過ぎるが、今では余り聴かれなくなった「偉大なベートーヴェン」を味わうことが出来る。

「田園」も大柄な演奏だが、大味にはなっていない。弦が時折、引きずるような歌い方をするのが気になるが、音も音楽も瑞々しい。録音年代ゆえ、音質は粗めだが、傷にはなっていない。

 

DVDでテレビドラマ「がんばっていきまっしょい」第5巻(「第9話=第九艇」、「最終話=最終艇」)を観る。
原作とも映画とも違う設定(ただ、結果は同じ)。原作には書かれていても映画では採り上げられなかった高校卒業後の彼女達の話もドラマでは出てくる。
輝かしくて、甘酸っぱい果実のような青春。いいな。
でも仮に、神様が出て来て、私をもう一度青春時代に戻してあげようと言っても私は断ると思う。輝かしくて甘酸っぱい青春が似合わない人もいる。私もその一人だ。
展開もラストも予想できるのだが、そんなことはどうでもいい。誰かの心を動かすのはやはり他の誰かの心でしかない。展開や設定に心が動かされるわけではないのだから。

 

「君とまたみるめおひせば四方(よも)の海の水の底をもかつき(発音は「かづき」)見てまし」(和泉式部。泉鏡花の小説『春昼・春昼後刻』で効果的に用いられている)(了)

 

10月2日(月)

雨の朝。昼頃から小降りになり、あがる。


ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団の「ベートーヴェン序曲集」を聴く。独ソニー・クラシカルの「espiritシリーズ」の1枚。980円の廉価盤。
CBS(現:ソニー・クラシカル)時代のセルの録音は音が今一つなのだが(CBSがドル箱であるオーマンディ&フィラデルフィアとバーンスタイン&ニューヨーク・フィルを重視して、マニア向けのセル&クリーヴランドは軽視。傘下のepicレコードの技術者を送っていたためと言われている)、このCDの音はなかなか優秀だ。
「レオノーレ」序曲3曲、「フィデリオ」序曲、「コリオラン」序曲など8曲を収録。セルもオーケストラを大いに鳴らし、爽快な演奏を繰り広げる。鳴りの良さはジンマンとチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団の「ベートーヴェン序曲全集」(アルテ・ノヴァ)に匹敵する。
曲の内容よりもオーケストラの音の響きを重視した演奏で、ベートーヴェンの序曲がこれほど爽快に鳴り響いていいのか、という疑問も生まれるが、音そのものを楽しむには適したCDだ。今日のような天気の日には、こうした豪快なベートーヴェン演奏が合ってもいる。
 


オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団の演奏で、交響詩「大洋の女神(海の精たち)」ほかを聴く。スウェーデンのレーベルであるBISの録音、発売。交響詩「大洋の女神」(ライナーノーツには「海の精たち」という邦訳が書かれている)の初稿(イェール版)と最終稿のほか、「春の歌」の初稿、カッサシオンの初稿、その他、余り知られていない楽曲を収めた1枚である。「大洋の女神」決定稿以外は全て世界初録音だという。

最初に収められた交響詩「大洋の女神」初稿(イェール版)から霊感に満ちた響きに魅了される。しかし自己評価が極めて厳しかったシベリウスは、初稿を依頼先である米イェール大学に送った直後から同作品の改訂に入り、演奏も決定版である最終稿を用いて行われたため、結局、初稿(イェール大学のホレイシオ・パーカー教授とアメリカの富豪であるカール・シュツッケルに作曲を依頼され、現在もイェール大学の図書館に楽譜が保存されていることから「イェール版」の名がある)がアメリカで演奏されることはなかった。
「大洋の女神」(イェール版)の初演が行われたのは2002年、今回演奏しているオスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団によってである。

交響詩「大洋の女神」はシベリウスが印象派に歩み寄りを見せた作品であり、確かに決定版である最終稿には同じく海を描いた印象派の作曲家・ドビュッシーの交響詩「海」に似た響きがあり、似た旋律も登場する(ドビュッシーの「海」が初演されたのは1905年。シベリウスは1909年にロンドンのクラブでドビュッシーと出会っている。「大洋の女神」〔イェール版、最終稿とも〕が作曲されたのは1914年)。シベリウスとドビュッシーの対面は上手くいかなかったそうだが、シベリウスがドビュッシーの創る音楽に新たな可能性を見出してたことが窺える。

オスモ・ヴァンスカ指揮のラハティ交響楽団は全ての楽器が理想的な音を出しており、現代最高のシベリウス演奏と呼んでも大袈裟でないほどの充実ぶりを示している。

 

ピアノの音はいいなあ、電子音だけれど、などと思っているうちに、夜も遅くなる。


「鴨東記」の検索ワードランキングは、上川隆也の一人勝ち。斎藤晴彦というワードで入ってくる人は一人もいませんでした。


球団史上初の2年連続負け越しが決まった読売ジャイアンツが9選手に戦力外通告を行う。原俊介など入団時に話題になった選手も含まれる。スワローズも大リストラを予定しているし、秋は寂しさのつのる季節である。(了)

 

10月3日(火)

カナート洛北で買い物。楽譜などを買う。地下で釜玉うどんを食べる。


パーヴォ・ヤルヴィ指揮シンシナティ交響楽団の演奏で、ルトスワフスキとバルトークの管弦楽のための協奏曲を聴く(TELARC)。
いつもは録音が柔らかすぎる傾向のあるTELARCだが、このCDは低音に迫力がある。ただ、輸入盤(日本語のライナーノーツが付いた国内盤仕様)であるためか、オーディオとの相性が良くなく、たまに音飛びする。レンズクリーナーをかけ、再生するが、また別のところが音飛びしたりする。CD自体に問題があるのかも知れないが、盤面を見ても傷はない。

演奏はバルトークの方が優れている。パーヴォのしなやかな音楽性が生きた演奏であり、シンシナティ交響楽団の音も美しい。
ルトスワフスキの管弦楽のための協奏曲も良い演奏だが、ルトスワフスキの出身地であるポーランドのコンビ、例えば、アントニ・ヴィト指揮ポーランド国立放送交響楽団の演奏(ナクソス)などと比べると、技術はパーヴォとシンシナティの方が上でも共感においてはポーランド組に一歩譲るようだ。


サー・ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団の演奏で、ブルックナーの交響曲第5番を聴く(DECCA)。これまた廉価盤シリーズの1枚で、1000円を切る。
1980年、ショルティが68歳の時の録音である。
シカゴ響の威力は抜群で、さすが全米オーケストラランキング(というものがあるのです)で常に1位に輝いていただけのことはある。
ショルティのドライブも優れているが、この人の長所でもあり短所でもあるのが、音を明確に響かせ過ぎること。この演奏でも全ての楽器の音がクリアに聞こえるのだが、いずれも直線的というのか、素直に響かせているだけなのだ。どうも、ショルティという指揮者は各楽器の音を程よくブレンドさせるという発想は持っていなかったらしい。
明晰な演奏で、曲の構造が良くわかる。ただ、余りに明解すぎて神秘性を欠く上に音がうるさい。各楽器の音色をブレンドさせないとブルックナーの曲はただバリバリ鳴り響くだけの音楽になってしまう。残念ながらこのショルティのブルックナーはそのバリバリ鳴り響くだけの音楽に限りなく近い。
第2楽章、第3楽章などは弦のクッキリとした歌が心地良かったりもするのだが、最終楽章のラストになると、ただでさえ屈強なシカゴ響のブラスが野放図に吹きまくるため、耳と神経に障る演奏になっている。

シカゴ交響楽団のブルックナー交響曲第5番というと、10年前の1996年に、故・朝比奈隆が客演して指揮しているが、そのDVDが12月に発売されるらしい。96年当時にNHKでも放送されていて、確かシカゴ響にしては珍しく金管にミスがあったはずだが、演奏そのものは上質だった。あの演奏がまた聴けるというのは嬉しいことである。 

 

外の気温は低いのだが、室温は高いという状態が続いている。アパートの部屋に密閉性があるためだ。


しばらく横になって体を休めるつもりが、いつの間にか眠りに落ちていた。これじゃ体に良いわけないよ♪(以下略)。(了)

 

10月4日(水)

曇り空。午後3時過ぎから雨が降り始める。


朝早くに目覚めてしまったので、再び眠る。ろくでもない夢を見る。


仲道郁代のピアノ、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の伴奏でベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」を聴く(RCA)。SACDハイブリットCD。演奏の模様を収録したDVDビデオも出ているが、そちらを買うにしても、まずはCDで音楽を楽しむ方がいいだろう、ということで購入した。

仲道郁代のピアノは打鍵が弱いが、それを音の煌めきでカバーしている。表情はあっさりしており、いかにも日本人ピアニストの演奏といった風だ。
重厚さはなく、音が美しいのでベートーヴェンというよりモーツァルトの音楽を聴いているような気分になる。
伴奏を務めるパーヴォ・ヤルヴィ指揮のドイツ・カンマーフィルは、交響曲演奏の時とは違い、テンポも中庸(というより交響曲演奏の時のテンポを採ったらピアノがついてこられないだろう)。音はよく鳴っているが、奇抜なことはしていない。ただ、ティンパニを思いっきり強打させているところはパーヴォらしい。

 

神戸へ。神戸新聞松方ホールで、トルコ出身のピアニスト、ファジル・サイのリサイタルを聴くためである。
少し早めに高速神戸駅に着いたので、楠木正成を祀る湊川神社に参拝。境内には楠木正成(大楠公)の墓所もある。というより、正成の墓所を取り込む形で湊川神社が建てられたと言った方が正確なのだが。

神戸新聞松方ホールのソワレは、午後7時15分という他のホールとは違った時間に始まることが多い。今日のファジル・サイのリサイタルもやはり午後7時15分に始まった。曲目は、前半がモーツァルトの「ああ、お母さん聞いて」による12の変奏曲(通称:キラキラ星変奏曲)とピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」、J・S・バッハの「パッカサリアハ短調 BWV.582」。前半は当初、オール・モーツァルト・プログラムの予定であったが、3曲目の「幻想曲ニ短調 K397」が外され、代わりに大バッハの作品が入れられた。後半は、J・S・バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より「シャコンヌ」ピアノ編曲版(ピアノ編曲:ブゾーニ)とベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番「熱情」という組み合わせ。

1970年、トルコの首都アンカラに生まれたファジル・サイは当地の音楽院で学んだ後、ドイツ・デュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽院、更にベルリン芸術大学で学んでいる。作曲家でもあり、アンコールでは自作も演奏された。

さて、このファジル・サイ。かなり変わった人だとは聞いていたが、百聞は一見にしかず。グレン・グールドも真っ青の変人ピアニストであった。
まず、ピアノを弾きながら歌う。左手を無意味に高く上げる。観客の方を向きながら、反っくり返るようにしてピアノを弾く、かと思ったら、誰もいない後方をずっと見つめながら弾き出す(私には見えなかったがモーツァルトの霊でもいたのだろうか)。ピアノに向かって投げキッスを繰り返す。ピアニッシモを奏でる時は口に指を当てて「シーッ」という仕草をする、などなど、数え上げたらキリがないほど多くの奇行を見せる。この手の変人ピアニストは20世紀で絶滅したかと思っていたが、まだ生きていた。優等生的なピアニストが大多数を占めている中で、ファジル・サイのようなピアニストは貴重である。
キラキラ星変奏曲では、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」やピアノ協奏曲第21番第2楽章「短くも美しく燃え」などのモーツァルトの他の曲にも見られる旋律を強調し、別の曲のようににしてしまった。更にはイスラエルの国歌風のメロディーを風でなく国歌そのものにするなどやりたい放題である。しかし、才能は確かで、基本的にモノクロームの楽器と言われるピアノから多彩な色合いの音を引き出す。テクニックも素晴らしい。弱音の美しさ、強奏の迫力なども特筆ものである。

ピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」も自在な表現。曲想の描き分けの上手さ、ノリノリのトルコ行進曲の楽しさなど、ピアノ演奏の醍醐味を味わわせてくれる。ただ全てが素晴らしいというわけではなく、第1楽章などでは余りに乱暴な演奏に唖然とさせられたりもした。本当のモーツァルト好きが聴いたら怒り出すんじゃないだろうか。

J・S・バッハの2曲は一転して壮絶な演奏であった。「パッカサリア」ではバッハの音楽には不釣り合いなほど雄大なスケールの演奏を展開し、天才という触れ込みが嘘でないことを確認する。

「シャコンヌ」は更に優れている。ブゾーニ編曲のピアノ版「シャコンヌ」は様々なピアニストのコンサートで採り上げられる曲であり、録音も比較的多い。しかし、ファジル・サイの「シャコンヌ」演奏はこれまで聴いたことのあるどのピアニストの演奏とも違う、桁外れの名演であった。雄大なスケール。深い音色。一音符毎に変わる表情。
これまで、「シャコンヌ」はあくまでヴァイオリン用の曲で、ブゾーニの編曲は、そのエッセンスをピアノに移植しただけに過ぎないと思っていた。ブゾーニのピアノ編曲版は原典のヴァイオリン版には勝てないと。しかし、ファジル・サイの演奏するピアノ版「シャコンヌ」は平凡なヴァイオリニストが奏でるそれよりも数段上であった。ファジル・サイのテクニックは完璧であるが、それよりも音楽性の豊かさが目立つ。曲の掘り下げも素晴らしい。となるとピアノの音量は、ヴァイオリンなど比較にならないほど豊かであり、ヴァイオリンを上回る演奏が生まれたとしても不思議ではない。その不思議ではないことが私の前で初めて起きたのだ。

ベートーヴェンの「熱情」ソナタも最上級の名演。音の強弱を極端なほどにつけた演奏であったが、それが不自然とは全く思われないというところに、ファジル・サイというピアニストの傑出したセンスが現れている。

アンコールは3曲。まず、ファジル・サイの作曲作品である「ブラック・アース」が演奏される。左手でピアノの弦に直接触れて震動を抑え、右手でその部分の鍵盤を押すことであたかも弦楽器をつま弾いているような音色を出すという面白い曲である。作風はどことなく坂本龍一に似ている。

続いて、ガーシュインの「アイ・ガッタ・リズム」変奏曲。ジャズも演奏するというファジル・サイだけにノリがいい。

そして最後は、モーツァルトの「トルコ行進曲」ジャズ編曲。ファジル・サイの才能がピアノから噴き出す様が見えるような快演。聴衆が大いに沸く。
 

終演後、サイン会がある。私もCDを買って参加したのだが、ファジル・サイ君、やはり変わり者のようで、サインしながらあっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ、視点も定まらず、はっきり言って挙動不審であった。

グレン・グールドを連想させるだけに、いつコンサートドロップアウト、もしくは逆に録音活動停止などをしてもおかしくない。万が一そうなる前に是非、生で味わって頂きたいピアニストだ。これほど面白いコンサートをやるピアニストは滅多にいない。(了)

 

10月5日(木)

こむら返りがある。

疲れがあり、怠い。体の抵抗力が落ちている気がする。大阪まで出かける予定があったがキャンセル。

午前9時過ぎから降り始めた小雨が断続的に降り続く。


仲道郁代のピアノ、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団のベートーヴェン・ピアノ協奏曲第3番、第5番「皇帝」を聴く。高圧的なところがないので何度も聴くには良いCDだ。というわけで、「皇帝」は2度続けて聴く。


それから耳に馴染みのあるCDを2枚聴く。余り思い曲は聴く気にならないからだ。「日本のサンソン・フランソワ」(東芝EMI)と、マイケル・ナイマン作曲の「ピアノ・レッスン」オリジナル・サウンドトラック(ヴァージン)。


その他にも色々やろうと思っていたのだが、体が重い。何となく一日を終えてしまう。(了)

 

10月6日(金) 旧暦8月15日

朝から雨。午後になって止むが、深夜に再び降り始める。その合間を縫って十五夜の月が出る。


パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」と交響曲第8番を聴く(RCA)。イギリスのヴァイオリニスト、ナイジェル・ケネディは、ベートーヴェンについて、「今の時代に生まれていたらロッカーになっていたに違いない」と語っていたが、パーヴォとドイツカンマーフィルのベートーヴェンはロックしている。快速のテンポ、ビートの利かせ方など、現代の若者にもアピールする鮮烈な演奏である。
ところで、パーヴォには10歳下の弟がいる。クリスティアン・ヤルヴィといって、彼も指揮者だ。オフィシャルホームページではビートの利いた音楽が流れていて、こちらは更にロックのノリである。クリスティアンのベートーヴェンはパーヴォよりロックしているのだろうか。
これまたところでだが、「レコード芸術」誌の交響曲盤評で音楽評論家の宇野功芳氏が、パーヴォのベートーヴェン解釈に疑問を呈しており、「英雄」に関しては、「一刻も早く終わらせてしまいたいのだろうかと想像してみる」と書いている。しかし、宇野さんは自分で書いていて変だと思わないのだろうか。文脈から言って皮肉の可能性はなく、感想をストレートに述べているのだが、はっきりいって呆れるほど素晴らしい想像力である。ほとんど妄想に近い想像力であり、自分の知的レベルを明かせてしまう勇気には感動する。

「英雄」を2度続けて聴く。

 

DVDで韓国映画「オー!マイDJ」を観る。イ・ウンジュとイ・ボムス主演のラブコメディ。以前、レンタルで観たことがあるが、その後、DVDを購入した。原題は「アンニョン!UFO」で、こちらの方がコメディ映画のタイトルとしては良いと思うが、イ・ウンジュ演じるギョンウとイ・ボムス演じるサンヒョンの恋に焦点を当てた「オー!マイDJ」も悪いタイトルではない(ちょっと古臭いタイトルだとは思うが)。
イ・ウンジュは、目の不自由な女性、チェ・ギョンウを演じている。ギョンウは目が不自由といっても暗い雰囲気はなく、むしろ明るくて勝ち気な女性である。
イ・ウンジュ(1980−2005)は実年齢より上の役を演じることが多く、この映画でも設定年齢は28歳(撮影当時のイ・ウンジュの実年齢は23歳)である。落ち着いた雰囲気があるため年上の役を振られることが多かったのだが、この映画のイ・ウンジュは表情が明るいためか、20代前半の愛らしい女の子に見える。

イ・ボムスは(1970− )は、10年近くもずっと端役街道を歩き続けた俳優だが、苦労が実って21世紀に入ってからは主役級の役が回ってくるようになった。現在、実在の韓国プロ野球選手の半生を描いた主演映画が日本で公開中である。

韓国映画に限らず、アジア映画というと、10年ちょっと前までは「暗い、重い」というイメージがあった。その手のシリアスな作品ばかりが日本で上映されていたためだ。ではコメディはなかったのか、というと勿論そんなことはなくて、数多く制作されていたのだが、残念ながらレベルは今一つで外国の買い手がつかなかったのである。
しかし、90年代から風向きが変わる。まず香港が「恋する惑星」に代表されるようなポップな恋愛映画を生みだし、韓国も映画を国策の一つに掲げ、レベルアップに乗り出す。国立の映画大学が出来、多くの大学に映画学科や演劇学科が開設された。
「オー!マイDJ」も傑作というほどではないが、愛らしいコメディに仕上がっている。出てくるのがリアリティを欠いた人ばかりというのもコメディだけに良いと思う。

 

大阪へ。ザ・シンフォニーホールで、毎年恒例のアジアオーケストラウィーク、今年は中国のハルビン・黒竜江交響楽団を聴く。ハルビンのオーケストラというと戦中に活躍し、朝比奈隆が常任指揮者を務めた「王道楽土のオーケストラ」ことハルビン交響楽団が有名であるが、これは満州(現・中国東北部)在住のロシア人によるオーケストラであり、1945年8月15日の終戦と同時に解散している。
今回来日したハルビン・黒竜江交響楽団のは、1970年に創設された若いオーケストラ。メンバーは全員中国人である。

中国のオーケストラは一昨年に上海交響楽団の、昨年は広州交響楽団の演奏を聴いている。上海交響楽団は「なんだかなあ」のオーケストラであったが、広州交響楽団は世界レベルに後一歩で届く優れたアンサンブルであった。中国は広いだけに同じ中国国内のオーケストラでも実力にかなりバラツキがあるようである。

ハルビン・黒竜江交響楽団のコンサートは、まず中国人作曲家・王寧に交響前奏曲第1番「時代」でスタート。1999年に作曲された作品である出だしはNHK大河ドラマのテーマ曲になってもおかしくないような軽めの音楽であったが、次第に大河の流れを思わせるような音のうねりと凛とした響きを持つ音楽へと変貌を遂げる。オーケストラ団員がネイティブ・アメリカンの雄叫びのような声を出すなどユニークな場面もあり、聴き応えのある曲であった。ハルビン・黒竜江交響楽団も自国の作曲家の作品だけに共感溢れる演奏を繰り広げる。

続いて、1986年生まれのヴァイオリニスト楊暁宇をソリストに迎えたシベリウスのヴァイオリン協奏曲が演奏される。
序盤の弦の刻みからハルビン・黒竜江交響楽団の演奏は大味であったが、演奏が進むに連れて次々と弱点を露呈する。まず、ハーモニーが作れていない。個々の奏者の技量が著しく劣るというわけではないのだが、みな好き勝手に弾いているため、アンサンブルにならないのだ。縦の線が合わないので、旋律は呈を成さず、アンバランスなモヤモヤとした響きがするだけ。またオーボエとクラリネットのユニゾンが合わないなど、プロオーケストラとは思えない箇所も多々あった。
楊暁宇はテクニックはしっかりしている。しかし、伴奏が酷すぎる。耳で聴いていても今どこを演奏しているのかわからないようなオーケストラがバックでは、まともに演奏するのは難しい。楊暁宇はほとんど指揮だけを見て弾くしかなく、これではこちらも曲を楽しむどころではない。

楊暁宇は欲求不満だったのだろう。アンコールにパガニーニの「ロッシーニの『シンデレラ』より『悲しみよ去りゆけ』による序奏と変奏曲」という、超絶技巧を要する長い曲を弾いた。少々荒っぽい演奏であったが、これで技術が優れていることを披露。
更になんと2曲目のアンコールを弾く。ラフマニノフの「ヴォカリーズ」ヴァイオリン編曲。これでリリシズムやロマンティシズムの表現も得意であるということを示す。
それにしてもアンコールを2曲やるということは、シベリウスの演奏が余程気に入らなかったのだろうか。

上海交響楽団は、技術はそこそこでも大変情熱的な演奏を繰り広げていたが、ハルビン・黒竜江交響楽団は良く言えば冷静、悪く言うと冷めた無感動な演奏をする。響きに情熱が感じられない。本当にみな音楽が好きなのだろうか?
ということで、楊暁宇がアンコール曲を弾いている間、楽団員の顔を見てみたのだが、つまらなそうにしているメンバーが多い。特に女性チェリストの一人は腕時計にしょっちゅう目をやるし、楊暁宇が「ヴォカリーズ」を弾き終えても拍手もしなかった。やはり音楽好きではないようだ。音楽が好きではないが、得意なのでプロになってしまった演奏家は実は相当数いるのだが、ハルビン・黒竜江響のメンバーにはそうしたタイプが多いようである。

メインはショスタコーヴィチの交響曲第5番。
ショスタコーヴィチの交響曲は中国のオーケストラにとっては要となる曲である。これで駄目だと、もう何をやっても駄目なのだが、残念ながらプロと呼ぶに相応しい水準には達していなかった。相変わらずハーモニーが作れていないし、弦の歌も豊かさを欠く。第3楽章では冒頭の弦の出だしが全く揃わないなど、プロとしてあってはならないミスを連発。団員が他の団員の音をきちんと聴いているとは思えない。
第4楽章はブラスの威力で押す。そのブラスも音は大きく輝かしいが、指揮者の指示するテンポに着いていけなかったりと、技術では多いに不満がある。

まずは、他の団員の出す曲を良く聴くという意識改革と徹底したハーモニー作りの訓練から再出発しないと、この楽団はレベルアップしないだろう。
数年前に、当時、NHK交響楽団の音楽監督であったシャルル・デュトワが中国国立交響楽団の演奏会を指揮するため北京に渡ったときのドキュメンタリーがNHKで放送されていたが、美しいハーモニーを出せない中国国立響の楽団員達のレベルに頭を抱える場面があった。そのことを思い出す。

アンコールは中国のオーケストラの定番「良宵」弦楽オーケストラ版。「良宵」は胡弓(二胡)のための曲だが、オーケストラバージョンでも中国の楽団は弦楽が胡弓のような音を出す。ハルビン・黒竜江交響楽団の弦楽もこの曲では優れた合奏と歌心を披露した。これは名演。

アンコール2曲目は、チャイコフスキーの『白鳥の湖』より「ナポリの踊り」。トランペット独奏の技術はまずまずだが、どこか妙な演奏だ、と思って良く見てみると、ソロ・トランペットは楽譜に顔をぶつけんばかりにして吹いている。これでは指揮者の姿が目に入らないのではないか。そこで、指揮者がソロ・トランペットに合わせて指揮することになったようだ。当然、アンサンブルは乱れやすい。
普通、譜面ばかり追っている楽団員は、指揮者から「指揮を良く見て」と注意されるものだが、この楽団はそういうこともないのだろうか?

文革による断絶で、発展が妨げられた中国のクラシック音楽界だが、広州交響楽団のように立派なオーケストラもあることだし、文革からも30年が経った。ユンディ・リーやラン・ランといった人気若手ピアニストや王健のような世界的チェリストも出て来ている。
問題は歴史の断絶よりも当人達の意識にかかっているところが大きいように思う。
それにしても団員同士で音を聴き合うというオーケストラ演奏の基礎がなっておらず、各人の出す音が大きさも何もかもてんでバラバラというのでは成長に時間が掛かりそうである。
 


ホールを出て、空に目をやると、十五夜の月が群雲の後ろを走っているのが見えた。雲がかかっているが、それでも強い輝きを放っている(写真は「洛北日和」に載せました)。しかし、梅田に着く頃には厚い雲に覆われて月は姿を消してしまった。

めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな 紫式部 (了)

 

10月7日(土)

曇り空。しかし出町柳まで出かけると激しい雨。再び家に戻ると晴れ間ものぞき、やがてまた小雨、曇り、大雨、晴れと猫の目のように移ろいやすい天気。


パーヴォ・ヤルヴィとドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団,ブレーメンのベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」と交響曲第8番のディスクを今日もかける。ちょっとしたフレーズにも生命力が宿る。
パーヴォとドイツ・カンマーフィルは今後3年計画でベートーヴェンの交響曲全集を録音する。一番期待できるのは交響曲第7番だろう。その他、第九も面白そうだ。ただ偶数番号はどうなるか。「田園」がカルロス・クライバーの演奏のようになっていたらちょっと嫌である。


サンソン・フランソワの弾く、ショパンの「14のワルツ」と「4つの即興曲」を聴く(EMI)。小粋なショパンだが、かなり個性的である。幻想即興曲などは美しい中間部の旋律を歌わずに、音を跳ね飛ばすように弾く。それでも乱暴というよりは斬新なショパンに聞こえるのが不思議である。
ボヘミアン気質のピアニストであったサンソン・フランソワは煙草と酒をこよなく愛し、特に酒は浴びるように飲んでいたという。それが祟ったのか、1970年に46歳の若さで世を去った。

 

大阪へ。OBP円形ホールで、イギリスの劇作家ノエル・カワード作のライトコメディー「プライベート・ライブズ」を観る。台本作成は飯島早苗、演出は山田和也。出演は葛山信吾、久世星佳、西川浩幸、ともさと衣、詩梨(しり)。

イギリス人のエリオット(葛山信吾)とシビル(ともさと衣)はハネムーンでフランスのドーヴィルに来ている。エリオットは再婚。以前はアマンダという強烈な個性を持つ女性と結婚していた。シビルはアマンダのことを知りたがるが、エリオットがアマンダのことを時に絶讃するので面白くない。
そしてそのアマンダ(久世星佳)はといえば、なんとエリオットとシビルと同じホテルにこちらもハネムーンで来ていた。相手はビクター・プリン(西川浩幸)という紳士的だが小柄で弱そうな男。アマンダが前夫であるエリオットから暴力を受けたことに同情しているが、実はアマンダもエリオットに輪を掛けて暴力的な女性であることには気づいていない。
当然のように鉢合わせたエリオットとアマンダ。5年ぶりの再会だが、恋の炎は瞬く間に再燃。シビルとビクターを残して2人で駆け落ちする決意を固める…。

ノエル・ハワードの「プライベート・ライブズ」は1930年に書かれた作品であるが、飯島早苗によるテキストの洗い直しと改編、そして山田和也の絶妙な演出もあって話の展開に全く古さを感じない。

よくまあここまでと思うほど風変わりな人ばかり出てくるが、それぞれの性格が見事に絡み合い、大爆笑コメディーになっている。ノエル・ハワードの才能には脱帽する他ない。今年観た舞台の中では一番笑えた作品であった。

俳優もいずれも好演。葛山信吾の男前ぶり、久世星佳の大人の色香、ともさと衣の愛らしさ、太ったフランス人メイドを演じる詩梨の存在そのものがコミカルな演技などにいずれも好感を持ったが、何と言っても一番は西川浩幸の笑いのツボを押さえた演技である。「次はどんなことをやってくれるんだろう」と、観ている間中期待していた。そして予想以上に笑わせてくれた。

十六夜の月を見ながら良い気分で家路につく。(了)

 

10月8日(日)

丸太町付近を歩く。鴨川の西、一筋目の道(東三本木通)を歩いていると、「立命館大学草創の地」の碑が目に入る。2000年に建てられたものだが、今でもピカピカで、かなりこまめに手入れされているのがわかる。立命館大学は鴨川と東山を望む、ここ三本木丸太町にあった料亭跡の建物を仮校舎として京都法政学校という名で開学。勤労者のための高等教育機関として最初は夜間のみの開講だった。翌1901年に広小路に新校舎が完成。京都法政専門学校、京都法政大学と名を変え、1913年に創設者の中川小十郎の上司であった西園寺公望が開いていた私塾「立命館」の名を受け継ぎ立命館大学となったという。
ちなみに鴨川左岸の公演全てに参加した永尾よしろうは広小路時代の立命館大生(法学部中退)で、「(当時の)立命館は就職がないと言われて余り人気がなかった」そうである。立命館大学は90年代から学内改革を次々に行い、今では関西で最も就職に強い私立大学となっている。


晴れているのに雨が降る。かと思っていたら雲が増えて曇った、と思ったらまた日射しが戻ってくる、というように今日も天気がコロコロ変わる。 

 

午後2時から京都コンサートホールで、ダニエル・ハーディング指揮マーラー・チェンバー・オーケストラの来日公演を聴く。
ダニエル・ハーディングは1975年生まれ(1976年生まれという表記も見かけ、実際はどちらが正しいのかわからない)若き巨匠。サー・サイモン・ラトルに認められて18歳でバーミンガム市交響楽団を振ってデビュー。デビュー公演は大絶讃された(その時の模様は「レコード芸術」誌などを通して日本でも紹介されている)。その後も順調にキャリアを歩み、ブレーメンのドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の音楽監督(パーヴォ・ヤルヴィの前任者である)を経て、2003年からマーラー・チェンバー・オーケストラの音楽監督を務めている。今シーズンからはロンドン交響楽団の首席客演指揮者を務め、今後はスウェーデン放送交響楽団の音楽監督への就任が決まっている。これほど大活躍しているのに録音には慎重で、まだ数枚のCDとDVDを制作しているだけである。

マーラー・チェンバー・オーケストラは1997年にクラウディオ・アバドによって創設された、まだ新しいオーケストラ。楽団員の平均年齢は29歳ということである。

曲目は、まずモーツァルトの交響曲第6番(モーツァルトの少年時代の作品であり、普通はモーツァルト交響曲全曲演奏会などでなければ採り上げられない曲である)、それからドイツの若手ピアニスト、ラルス・フォークトをソリストに迎えた、やはりモーツァルトのピアノ協奏曲第20番。メインはブラームスの交響曲第2番。

P席と表記される指揮者と対面する席に座る。今日の席は指揮者であるハーディングの真向かいであり、響きに問題はない。

ハーディングは端正な顔立ちと目の力が印象的な青年である。これほど目に力のある人はそうはいない。全曲ノンタクトで楽譜を置いての指揮であった。暗譜の重要性を認めていないのだろう。

モーツァルトの交響曲第6番という滅多に演奏されない曲を選んだところにハーディングのチャレンジ精神と自信が窺える。
ハーディングは編成をかなり小型にし、古楽器的奏法を全面に採り入れている。特に弦楽器はビブラートを極力抑えており、透明でありながらどこか鄙びた音色を生み出した。
ノンタクトで全身で伸び上がるように指揮するハーディングは、瑞々しい音楽を生み出す。活気にも富み、ほとんど習作扱いしか受けていないこの曲に新しい血を注ぎ込む。ただ、古楽器奏法を徹底させているため、音は小さく、遠くの客席の聴衆にもはっきり聞こえたのかどうかはわからない。

ピアノ協奏曲第20番。ソリストのラルス・フォークトは堅実なテクニックでクリアな音の演奏を繰り広げる。ただ第1楽章や第3楽章では音楽よりも技術の方が目立っているきらいあり。
ハーディングは顔を真っ赤にさせながら情熱的な指揮を繰り広げ、マーラー・チェンバー・オーケストラも真剣な演奏でそれに応える。ただ、第1楽章は音が激しすぎて、情熱が空回りしているようだった。
ラルス・フォークトはカデンツァに聴き慣れないメロディーを採用。ハーディングが団員に向かって、「変わったカデンツァだろう?」という風に目で語っている。
第2楽章はフォークト、ハーディングともに伸びやかでロマンティックな歌を披露。特にハーディングの指揮は表情豊かで感心させられる。
ハーディングの指揮は第3楽章になると力みも消え、ドラマティックな演奏が繰り広げられる。

フォークトはアンコールでモーツァルトの「トルコ行進曲」を演奏。技術は万全、旋律の歌わせ方にも個性がある。良い演奏だ。だが、残念ながら先日聴いたファジル・サイの演奏する「トルコ行進曲」には全く及ばなかった。


ブラームスの交響曲第2番は、マーラー・チェンバー・オーケストラも編成を大きくし(第一ヴァイオリン10人、第二ヴァイオリン8人、ヴィオラ6、チェロ4、コントラバス3。2管編成。「トランペットはどうするのかな?」と思っていたら、1人は管の長い古楽器モデル。1人は現代のトランペットを用いていた。なるほど、そういうのもありか)、スケール豊かな演奏が繰り広げられる。
温かみのある音色で演奏される巨匠風の演奏とは違い、鋭い音色と噴き出すような情熱を特徴とする演奏。
マーラー・チェンバー・オーケストラのメンバーがハーディングに全幅の信頼を置いて懸命に演奏しているのが印象的だった。
ハーディングはドイツ・カンマーフィルを指揮してブラームスの交響曲第3番、第4番を録音しており、新世代の名盤として高い評価を受けているが、それよりも数段上の演奏だ。

アンコールはドヴォルザークの「スラヴ舞曲集」第2集より第4番。これも30代の指揮者とは思えないほど落ち着いた名演であった。

 

マリス・ヤンソンス指揮サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ラフマニノフの交響曲第3番と交響的舞曲を聴く。EMIのクリスマス・バジェット・ボックス。
交響曲第1番、第2番ともにマリスとサンクト・ペテルブルク・フィルの演奏は今一つだったが、交響曲第3番では迫力と豊かな音色を兼ね備えた演奏を披露している。交響的舞曲も名演だ。(了)

 

10月9日(月) 体育の日

今日が運動会の学校も多いのだろうな。

早朝から仕事。あっという間に終わる。拍子抜けしたので鴨川沿いをしばらくぶらぶら歩く。
 


京阪電車と阪急電車を乗り継いで西宮へ。メールニュースで北朝鮮が核実験を行ったことを知る。
 

西宮北口駅南口にある兵庫県立芸術文化センター大ホールで、フィンランドのラハティ交響楽団の来日公演を聴く。

ラハティは首都ヘルシンキから北へ100キロほど離れたところにある人口10万人弱の小都市。スキーの大会が行われる街として一部では知られていたが、ラハティ市が1949年に設立したラハティ交響楽団の音楽監督にフィンランド指揮者のオスモ・ヴァンスカが1988年に就任。スウェーデンのBISに録音した「シベリウス交響曲全集」が大ヒットしたことで世界中の音楽ファンに知られる街となった。
ラハティ交響楽団は今や「シベリウスといえばラハティの名が真っ先に浮かぶ」というほどの名門オーケストラとなっている。
ラハティ響の黄金期を築いたオスモ・ヴァンスカだが、近くラハティのポストを退く予定で、今回がラハティ響の音楽監督としては最後の来日公演になる。

曲目は、予告では冒頭にコッコネンの「間奏曲」が演奏される予定であったが、同じ作曲家の作品である「風景〜室内管弦楽のための」に変更となった。
2曲目がグリーグのピアノ協奏曲イ短調(独奏:ユホ・ポホヨネン)。メインはシベリウスの交響曲第2番である。

4階席で聴く。兵庫県立芸術文化センター大ホールの4階席はステージからかなり遠い。東京・渋谷のNHKホール3階席並みであるが、響きはNHKホールなど比較にならない程良く、残響も理想的。佐渡裕指揮のオープニングコンサート(ベートーヴェンの第九)で訪れたときはさほどとは思わなかったが(その時はレフト側〔下手〕サイドの2階席で聴いた)、遠くの客席で聴いて、優れたホールであることがわかった。

現代フィンランド音楽界を代表する作曲家の一人であったヨーナス・コッコネン(1921−1996)の「風景〜室内管弦楽のための」は爽やかで詩的な曲であったが、続く有名曲2曲を聴いているうちに印象が薄くなってしまった。


グリーグのピアノ協奏曲イ短調のソリスト務めるユホ・ポホヨネンはまだ20代半ばのピアニスト。UFOを連想させるファーストネームと、金子みすゞの親友の名前を思い起こさせる苗字がユニークだ。
ポホヨネンは実に瑞々しいピアノを奏でる。設定テンポは少し速め。技術は確かであり、若さに任せない表現力の持ち主だ。全ての音を淀みなく響かせる力量には関心させられる。
オスモ・ヴァンスカ指揮のラハティ交響楽団も澄んでいながら厚みのある音を出す。

アンコール曲としてポホヨネンはグリーグの抒情小曲集より「春に寄す」を弾く。春になって溶けたばかりの雪が清らかな流れとなっていく様を連想させるような清冽な演奏であった。


シベリウスの交響曲第2番。この曲の理想像を見事に描き出した最高の演奏であった。
ラハティ交響楽団は総勢50人ちょっとの中編成のオーケストラであるが、音の鳴りは素晴らしい。バランスも最上に保たれ、テンポも理想的。
弦が大らかに歌う第1楽章。チェロのピッチカートに始まり、管楽器が次々に悲歌を奏でる第2楽章。そして立体感が素晴らしい第3楽章。スケール豊かな凱歌が何度も繰り返される第4楽章。いずれもこれまで私が生で聴いたシベリウス演奏の中でトップである。

アンコールは「悲しきワルツ」。特別な演出は施さない、落ち着いた演奏であった。

「悲しきワルツ」演奏後も、楽団員達が楽譜を繰り、これまでステージ上にいなかった打楽器奏者が徐に歩いて出て来たことで、更にアンコール曲があることがわかる。曲目も予想できる。

そして予想通り、交響詩「フィンランディア」が演奏される。冒頭のブラスから迫力満点であり、フィンランド第2の国歌とも言われる中間部の旋律も北欧の空気を連想されるヒンヤリとした音でありながら情熱一杯に歌われる。
そしてラストはヴァンスカとラハティ響の力を見せつけるような巨大な音の伽藍を築き上げる。最高の「フィンランディア」だ。

会場は割れるような拍手に包まれる。ラハティ響のメンバーが全員退場しても拍手は鳴りやまず、オスモ・ヴァンスカが一人でステージに現れて一礼。聴衆は最高の指揮をしたヴァンスカをスタンディングオベーションで讃えた。(了)

 

10月10日(火)

1964年の今日、第18回夏季オリンピック東京大会の開会式が行われた。それ故つい最近まで10月10日は体育の日だったのだが、ハッピーマンデーということで10月第2周の月曜日が新たに体育の日になり、10月10日は祝日ではなくなった。目の愛護デーの方は当然ながら変更にはならなかったが。

早朝から読書。そして改訂を続けてきた戯曲に最後の筆を入れ、アップする。戯曲のタイトルは「ブラックボックス」といい、今から3年半以上前、2003年の2月頃に書かれたものである。当初は、「20分ぐらいの短い戯曲を書こう」と思い、書き上げたのだが、読み合わせをしてみると、意外にも倍の40分近い本であることがわかった。そこで、どうせならと、更に加筆して1時間15分くらいの作品にしようと思ったのが今年の5月。7月までに終わらせる予定だったのが、執筆時間が思ったほど取れなかったこともあり、完成が遅れていた。

私がこれまで書いた戯曲の中で最もポピュラリティーのある(「ありきたり」ともいう)、わかりやすい戯曲です。これでもわからないという人は…、もう知りません。

新しい戯曲は「未上演戯曲集」に載せました。

 

マリス・ヤンソンス指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団の「ワーグナー 序曲&前奏曲集」(EMI)を聴く。1000円前後で出ている廉価シリーズの1枚。1992年の録音。
マリス・ヤンソンスは、ノルウェーの首都のオーケストラでありながら長く低迷していたこのオスロ・フィルのレベルを大幅に引き上げ、オーケストラビルダーとして確固たる評価を得た。

オスロ・フィルも北欧のオーケストラらしくヒンヤリとした響きを持っている。気候がオーケストラの音色に直接関係しているとはいえないと思うが、やはりオーケストラ団員達は普段接している気候に影響されて自然とそれらしい音色を出すようになるのだろうか。

張りのある音と、マリスの軽快なオーケストラドライブが印象的な演奏。ただ、「タンホイザー」序曲などでは金管が直線的で深みのない歌を吹いており、それが一流とされる他のオーケストラ(ベルリン・フィルやウィーン・フィル)のワーグナーに比べて物足りない。

 

ビートルズの「パスト・マスターズ Vol2」を聴く。ビートルズはシングルとアルバムを別個のものと考えていたため、アルバムにシングル曲は収録しなかった(アルバム曲からシングルカットすることはあったが)。そのため、シングル曲だけを聴くには新たにアルバムを作る必要があった。そこで出来たのが「パスト・マスターズ Vol1」と「パストマスター Vol2」である。
「パスト・マスターズ Vol2」には、「ヘイ・ジュード」など後期のシングル曲が収められている。

 

坂本龍一のアルバム「/04」を聴く。楽譜を読みながらの鑑賞。音型の処理の仕方などに発見がある。

 

プロ野球セントラル・リーグは中日ドラゴンズが2年ぶりの優勝を決める。落合博満監督、男泣き。
ここ数年は阪神と中日が1年おきに優勝している。90年代はヤクルトと巨人が1年おきに優勝するという2強時代だったが、近年は阪神と中日の2強時代になっている。巨人の人気と実力の低迷、ヤクルトの選手層の薄さなど、後に続くべきチームはそれぞれ問題を抱えている。広島と横浜は今年は戦力が整わなかった。広島はエースの黒田が大活躍、横浜は村田と吉村の成長が著しい。来年はどうなるか。
ところで中日がマジックナンバー1で迎えるゲームなのにテレビ中継がないというのはどうしようもない。読売新聞系列の日本テレビのエゴである。巨人はまたもイメージダウンしそうだ。

パリーグは明日から優勝を決めるプレーオフ第2ステージ、福岡ソフトバンクと北海道日本ハムの南北対決が始まる。ともに地元の人気に支えられているチームだ。熱い戦いになりそうである。(了)

 

10月11日(水)

DVDでイタリア=フランス合作映画「太陽はひとりぼっち」を観る。イタリアの巨匠ミケランジェロ・アントニオーニ監督作品。アラン・ドロン、モニカ・ヴィッティ:主演。モノクロームの映像が美しい。
リカルドという男との恋に敗れたヴォットリア(モニカ・ヴィッティ)と、証券取引所に勤務するピエロ(アラン・ドロン)とが恋に落ちていく様を描いた作品。一応、恋愛映画ということになるのだろうが、甘い雰囲気は感じられず、誰もいない広大な道(心象を表してもいる)を撮したり、各国の核開発競争を話題に絡めたりするなどして、茫漠とした恋路や、終末への不安感を示したりもしている。

ローマが舞台であり、役名を見てもわかるとおりイタリア人の話なのだが、セリフはフランス語。「チャオ」という挨拶のみイタリア語である。妙だが、当時(1962年)はこれが普通だったのだろう。

極端にセリフの少ないヴィットリアとリカルドとの別れの場面に始まり、どうということもなくストーリーは進み、どうということもなく終わってしまうのだが、2時間を超える作品であるにもかかわらず、「気が付いたら終わってしまっていた」と感じられるほど、見せてしまう技術は高い。個人的には好きなタイプの映画である。

ヴィットリオ役のモニカ・ヴィッティは実にチャーミング。アラン・ドロンが放つ男の色気も印象的。

 

サー・チャールズ・マッケラス指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏でヤナーチェクの「タラス・ブーリバ」ほかを聴く(チェコ・スプラフォン)。
ヤナーチェクは、チェコの東部・モラヴィア地方を代表する作曲家。指揮者のサー・チャールズ・マッケラス(1925− )はこのヤナーチェクのスペシャリストとしても名高い。

全てライヴ録音であるが、それを感じさせないほどアンサンブルの精度は高い。録音時(2002年)、マッケラスは77歳であるが、とてもそんな高齢とは思えないほど瑞々しい音楽を作る。

 

午後7時から大阪のザ・シンフォニーホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団(大フィル)の第402回定期演奏会を聴く。音楽監督である大植英次の指揮。
今日も満員。補助席が出るほどの盛況である。だが、超満員にもかかわらず、大阪フィルの財政が苦しいという旨が配布された無料パンフレットに書かれている。大阪府の助成が大幅にカットされ(かっては1億7千万円の補助があったが、現在は7千万円)、企業の援助も減り続けているという。
天下のベルリン・フィルでさえ、公費がなければ運営を維持できない(ヘルベルト・フォン・カラヤンが最晩年にベルリン・フィルを追われたのは、公費が投入されているベルリン・フィルを私的な金儲けのために悪用しているという内部告発があったためである)。オーケストラ運営は難しい。だが大阪府ももう少し理解があってもいいと思うのだが。

いつもは開演の15分ほど前からオーケストラ団員が三々五々ステージに出て来て音をさらい始め、徐々に人数が増えていって、最後はコンサートマスターが登場し、指揮者が出て来て演奏開始という大阪フィルだが、今日は開演時間に団員が一斉に出てくるというスタイルに変わっていた。

プログラムは前半が、ブラームス作曲、ヴァイオリン、チェロと管弦楽のための協奏曲(通称:ドッペル・コンチェルト)。ヴァイオリン独奏は大フィルの首席コンサートマスターである長原幸太。チェロ独奏はやはり大フィルの首席チェロ独奏で、僧侶でもある秋津智承(あきつ・ちしょう)。

3階席で聴いたのだが、上から見下ろす格好になるだけに一層大植の腹の出っ張り具合が気になる。明らかにメタボリックシンドロームである。

大植の体型はともかくとして、音楽は素晴らしい。ブラームスは冒頭から音に張りと艶があり、立体感と迫力も抜群だ。京都公演ではアンサンブルが崩れた大阪フィルだが、今日は完璧とはいかないまでもメカニックはかなり高度である。
大植と大阪フィルの定期は聴くたびにアンサンブルの精度が高まっており、オーケストラビルダーとしての大植の才能は確かなようだ。

長原幸太のヴァイオリンはいつも通りの美音で、歌心も抜群。秋津智承のチェロも派手さはないが音楽性は豊かだ。


後半はチャイコフスキーの交響曲第5番。ブラームスでは現代配置(とはいえチェロとヴィオラの位置が入れ替わった配置。N響が最初に始めたことから「N響配置」と呼ばれることもある。N響配置を採用している日本のオーケストラは多いが、海外のオーケストラではほとんど見られない配置である)であったが、チャイコフスキーでは両翼に第一、第二ヴァイオリンが来る古典的配置を採用。しかもコントラバスがステージ奥に横一列に並ぶというタイプの配置である。

大植のことだから、冒頭から力一杯の演奏だろうと予想していたが、それは外れた。大植は冒頭のクラリネットの音量を抑え、大袈裟な嘆きではなく、沈んだ気持ちを共感を込めて表現する。そこから徐々に盛り上げていく大植の演出が素晴らしい。
大阪フィルも透明でありながら情熱的な音を出す。第2楽章のホルンソロも技術、歌の豊かさともに最高レベルだ。
熱いカンタービレを見せながらも、造形美を崩さない大植と大阪フィルの演奏。日本人指揮者と日本のオーケストラでこれほどハイレベルなチャイコフスキーが聴けるとは嬉しいことだ。
料金設定の比較的安い日本のオーケストラがここまでの演奏をするとわかれば、実名は出さないがムラヴィンスキーの後任に推された彼と彼のオーケストラの来日公演(メインはやはりチャイコフスキーの交響曲第5番)を馬鹿高いチケット料金を払ってまで聴きに行こうとは思わなくなる人も増えるだろう。人件費は全て日本持ちという悪しき習慣も見直され、指揮者よりもソリストよりも稼いでいるとされるエージェントの態勢も問われるはずだ。それにしても、あのオーケストラはなぜマリス・ヤンソンスではなく彼を選んでしまったのだろう。人選の決まった直後から多くの音楽ファンが疑問を持ち続けている。少なくとも音楽面では彼がマリスを上回る部分はほとんどないのが明らかだからだ。


良い気分に浸ったままでいたかったので、このページの更新をせずにいったん眠りに就く。朝早く起きて更新。(了)

 

10月12日(木)

サンガリアの「濃い杜仲茶」の記事を「鴨東記」にアップしたのだが、ダイエット茶の製造・販売に関してはライバル会社となるT製薬の人が早速記事を見に来た。企業のWeb担当の人というのは本当に凄い。


サー・チャールズ・マッケラス指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」ほかを聴く(チェコ・スプラフォン)。チェコ・フィルの技術は高く、ライヴ録音とは思えないほど完璧なアンサンブルを聴かせる。
それにしてもヤナーチェクの「シンフォニエッタ」はユニークで面白い曲だ。一度、実演で聴いてみたい。出来るならマッケラスの指揮で。

 

2枚組ベスト盤「大貫妙子アンソロジー」(東芝EMI)を聴く。デビュー当時の曲から、NHKみんなのうたで知られる「メトロポリタン美術館」、映画「東京日和」の主題歌「ひまわり」、「彼の彼女のソネット」、映画「Shall We ダンス?」の主題歌「Shall We Dance」などを収録。
大貫妙子の歌を聴くには秋という季節が一番合っているように思うのは私だけだろうか?
いずれも落ち着いた趣と音楽性の高さが感じられる曲が並ぶ。坂本龍一、細野晴臣、小林武史などがアレンジャーとして名を連ねているのも壮観だ。本格化指向の方にもお薦めできるポピュラーアルバムである。

 

プロ野球パリーグプレーオフ第2ステージ第2戦。初戦をダルビッシュの快投でものにした北海道日本ハムが王手をかけている。札幌ドームでの一戦。
試合は福岡ソフトバンク先発・斉藤和巳、北海道日本ハム先発・八木ともに好投で、0対0のまま9回裏を迎える。日ハムは森本がフォアボールを選び、続く田中が犠打を決める。更に小笠原も四球を選び、ソフトバンクの斉藤和巳を追いつめる。セギノールを三振に打ち取り、2アウトを取った斉藤であるが、稲葉に内野安打を許し、日本ハムがサヨナラ勝ち。日本ハムのパリーグ制覇は、高橋一三(移籍前は巨人軍の左のエース)、間柴茂有(ましば・しげくに。81年の成績は15勝0敗。規定投球回数以上投げての勝率10割は、今も並ぶもののない大記録である)、江夏豊(ご存知優勝請負人)らを擁した1981年以来25年ぶり。

 

ファジル・サイの弾く、J・S・バッハ・ピアノアルバムを聴く。「フランス組曲」、「イタリア協奏曲」といったバッハのオリジナル曲に加え、リストが編曲したプレリュードとフーガイ短調とブゾーニによるピアノ編曲版「無伴奏バイオリン・パルティータより第2番第3楽章『シャコンヌ』」というトランスクリプション、最後は「平均律クラーヴィア第1巻」より前奏曲およびフーガで締める。1998年3月の録音。TELDECレーベル。
才人ファジル・サイのバッハだけに、他のピアニストの演奏とは一味も二味も違うインスピレーションに富んだバッハが聴ける。
先日、神戸新聞松方ホールで実演に接した「シャコンヌ」であるが、8年以上前の録音であるためか、あるいは録音技術の限界なのか、スケール、情熱、深み全てに不満があるが、それでも普通のピアニストとは違う演奏を堪能出来る。(了)

 

10月13日(金)

ファジル・サイの弾くバッハを聴く。音も美しく、個性にも富む。でも、ファジル・サイのようなタイプは日本で育っていたら、表舞台に出るまでには成長できなかっただろう。


久しぶりに相国寺付近を散策。金閣寺こと鹿苑寺、銀閣寺こと慈照寺はいずれも相国寺の末寺である。
相国寺では現在、秋の特別拝観を行っているが、以前も見たことがあるので、今日はパス。境内を散策するのみに留める。

相国寺の近く(もとは相国寺境内)の同志社大学今出川校地の前を通ると、同志社大学観光ツアー御一行が、同志社の紫色の校旗を持った案内係から「薩摩藩邸跡」碑についての説明を受けていた。同志社大学今出川校地は重要文化財に指定されている建物4つを擁する観光名所でもある。


ロッテリアで「ボビーバーガー」なるものを食べてみる。千葉ロッテ・マリーンズのボビー・バレンタイン監督プロデュースのハンバーガー。パイナップルとチーズ入り。味は悪くはなかったけれど、特に好みでもない。パイナップルとハンバーグのミスマッチ感は最初は新鮮に思えるのだけれど、食べているうちに、普通のハンバーガーの方が美味しく感じられるようになる。


家に帰る。少し休むつもりが、大分長く眠ってしまう。


音楽関係の本と楽譜を読む。専門的な音楽教育を受けたわけではないから楽譜はスラスラとは読めない。ただ、比較的技巧の易しいピアノ曲の譜面は読める。読まずにデザインとして眺めても楽譜は美しく、面白い。(了)

 

10月14日(土)

エリアフ・インバル指揮フランクフルト放送交響楽団の「マーラー交響曲全集」(ブリリアント・クラシックス。DENON原盤)より交響曲第9番を聴く。
オランダの激安レーベルであるブリリアント・クラシックス。このマーラー全集も5000円ちょっとで発売されて(普通はマーラーの交響曲全集というと曲が長大で枚数が多いということもあって、2万円ぐらいする)日本でも大ヒットした。おかげで制作元のDENONが出していた同じ音源のものが売れなくなってしまった。ブリリアントはその後もDENON原盤のCDを出そうとした(勿論ライセンスは取っていた)が、発売直前になって中止がアナウンスされた。

フランクフルト放送交響楽団は、機能の高さと音の美しさを特徴とするオーケストラ。機能美に関してはベルリン・フィルやバイエルン放送響とともにドイツトップ3に入ると思われる。そのフランクフルト放送交響楽団の機能美を高め、全盛期をもたらしたのがインバルだ。
このマーラーの交響曲第9番も音の美しさは全CD中トップクラスにある。
インバルもマーラーと同じユダヤ人だが、20世紀最高のマーラー指揮者といわれたやはりユダヤ系のレナード・バーンスタインなどに比べるとユダヤ色は抑え気味であり、音の美しさで勝負する耽美派のマーラー演奏になっている。マーラーにしては美しすぎるのではないかと思えるほどだが、綺麗事には終始していない。

フランクフルト放送交響楽団は今シーズンよりパーヴォ・ヤルヴィを音楽監督に迎えた。パーヴォは他にもドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団と、アメリカのシンシナティ交響楽団の音楽監督を務めているが、3つのオケの音楽監督を兼任することは無理なようで、シンシナティ交響楽団のポストは契約を更新しないようである。

 

坂本龍一のアルバム「CHASM」を聴く(ワーナー・ジャパン)。2004年に制作されたアルバムで、時代背景もあって反戦メッセージの強いものになっている。
もともと政治的発言の多かった坂本であるが、2001年の9・11テロを目の当たりにしてからは(坂本の自宅はニューヨークにある)反戦メッセージがより強くなった。またエコロジー問題にも関心を持っており、コンサート会場ではエコロジーバッグなどが売られており、コンサートの照明費も水力発電の電力を買ってあてている。
政治色はともかくとして、中国の胡弓(二胡)や韓国語の歌詞を採り入れたり、わざとレコード針のノイズを録音するなど、表現の幅のかなり広い音楽になっている。

 

ビートルズのアルバム「アビイ・ロード」を聴く。ジャケットに写っているポール・マッカートニーは裸足であり、これがポール死亡説の根拠とされたこともある。裸足のポールは死人を表し、ジョンが神父の、リンゴは葬儀屋の、ジーンズをはいたジョージは墓堀人の格好をしていることがその証拠であるという、まことしやかな解釈までされたが、実際は全員私服で写っており、その解釈は後付けに過ぎない。
ジャケットもさることながら、音楽のインパクトも印象的である。レノンやマッカートニーの作品ばかりでなく、ジョージ・ハリスンの作の2曲(「サムシング」、「ヒア・カムズ・ザ・サン」)も傑作であり、アルバムに奥行きを与えている。


 

大阪へ。京橋の松下IMPホールで、オリガト・プラスティコの公演「漂う電球」を観る。ウディ・アレン作、鈴木小百合:日本語訳、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(ケラ)演出。出演は、広岡由里子、岡田義徳、高橋一生、伊藤正之、町田マリー、渡辺いっけい。
オリガト・プラスティコは広岡由里子とケラが2001年に結成したプロデュースユニット。今回が3回目の公演となる。

1945年、ニューヨーク・ブルックリンの安アパート。ポール(岡田義徳)はIQ148の天才でありながら、吃音であり、また発達障害をも抱えているようだ。親には内緒で登校拒否を繰り返し、高校も卒業できる見込みはない。
パート勤めの母親のイーニッド(広岡由里子)は高いIQを持ちながらパッとしないポールにいらついている(1945年当時、発達障害に関する研究はまだ進んでいなかった)。
ポールの弟のスティーブ(高橋一生)も学校が嫌いであり、今にも崩れそうなアパートと家庭に嫌気が差している。
父親のマックス(伊藤正之)は深夜のバーで働いているが、バーは流行らず、収入も乏しい上に、ベティ(町田マリー)という若い女に入れあげて、高価なプレゼントなどを贈っているため、家計の足しにはならない。

登校拒否して街をさまよっていたときに見かけて手品店の華やかな道具類に見せられたポールは、それらを購入。IQが高いだけにすぐに上達、手品に夢中になる。ただイーニッドは、「手品師なんて稼げない」と一刀両断。しかしある日、知り合いの弟であるジェリー(渡辺いっけい)が芸能マネージャーであり、ポールに期待していることを知ると、一転、ポールに手品師として芸能界に入るよう勧める。だが、人前に出るのが苦手なポールはそれを嫌がるのだった…。

思ったより地味な作品であったが、落ち着いた大人の演劇でもあった。スウィートビターな味わいがあり、しかもビターの方が強いが、いたずらに盛り上げようとするだけに軽薄な演劇になるよりはよっぽどいい。

役者陣では渡辺いっけいの芸達者ぶりにいつもながら感心する。ジェリー役が渡辺いっけいでなかったらこの劇の魅力は半減していたかも知れない。手品を披露するポール役の岡田義徳も全ての手品をそつなくこなしており、努力を称えたい。(了)

 

10月15日(日)

午後2時より、兵庫県立芸術文化センター大ホールで、シプリアン・カツァリスのピアノ・リサイタルを聴く。
カツァリスはキプロス人の両親のもと、フランスのマルセイユに生まれ、パリで音楽教育を受けたピアニスト。ファーストネームの「シプリアン」とは「キプロス人」という意味である。
卓越したセンスを持つピアニストであり、人気は高い。兵庫県立芸術文化センター大ホールはチケット完売の盛況であった。

カツァリスは、前半をオール・ショパン・プログラム、後半をオール・リスト・プログラムで固めた。
「やあ」という風に右手を挙げてカツァリス登場。
ショパン・プログラムでは、映画「戦場のピアニスト」で有名になった夜想曲第20番(遺作)、夜想曲第2番、ピアノ・ソナタ第2番より「葬送行進曲」、幻想即興曲、子守歌などポピュラーな曲を中心に全10曲を間断なく引き続ける。この10曲で組曲1つという趣向のようだ。
夜想曲第2番演奏終了後、客席から拍手が起こったが、カツァリスは両手を合わせて、「ありがとうございます。でも拍手は入れないで下さい」という風に一礼。拍手もすぐに止んだ。また幻想即興曲演奏終了後も拍手が起こったが、すでに次の子守歌の左手伴奏を弾き始めていたカツァリスは右手の人差し指を挙げてそれを制した。

定評あるカツァリスのショパンであるが、音色にまず魅せられる。雪が溶けたばかりの冷たい清水のように、凛として透明感あるピアノの響き。
そしていくつかの曲では装飾音を着けて、より自由なショパンを演奏してみせる(ショパン自身も自作を楽譜通りに弾くことはほとんどなく、即興を交えるのが常だったようである)。

兵庫県立芸術文化センター大ホールはステージが広く、天井も高いのでピアノリサイタルに向いているのかどうか最初は心配だったが、音はクッキリしていて聴きやすい。カツァリスのピアノはダイナミックレンジが広く、ピアニッシモは本当に微かな音でも音型が良くわかる。
カツァリスのショパンはいずれも完成度の高いものであったが、音型を微妙に崩してみせる幻想即興曲や葬送行進曲、煌めくような音色が印象的な子守歌などが特に印象に残った。


後半のリスト・プログラムでは、カツァリスの超絶技巧が冴え渡る。有名曲は余りないが、カツァリスの語り口の上手さもあって、名曲に聞こえる。ラストの「忘れられたチャールダーシュ」は元々難しいリストの原曲にカツァリス自身が更に装飾音を加えたウルトラC級の難度の曲であったが、やはり本家だけに文句のない演奏を繰り広げ、喝采を浴びる。


アンコール。カツァリスはワイヤレスマイクを片手に現れ、これから弾く曲を説明しようとするが、スイッチが入らない。そこでホールの人が登場、何とかスイッチが入った。カツァリスの第一声は日本語で「みなさん、こんばんは」。ってまだ15時30分なのだが、まあいいや。「エスパニアン(スペイン人)作曲家2人の作品を演奏します。グラナドスの『アンダルーサ』とアルベニスの『タンゴ』です」と英語で紹介してからすぐに弾き始める。
最もギター的なピアノ曲として有名なグラナドスの「アンダルーサ」は私も好きな曲だが、カツァリスはスペインらしさとギターらしさを強調した名演を繰り広げる。

いったん引っ込んでから、再び登場。しかし今回もマイクの調子が悪い。そこでまたホールの人が現れて、マイクをワイヤー付きのものに変える。
カツァリスの英語での説明、「アメリカの作曲家の曲を弾きます。ゴッドシャルクというショパンと同時代人の18世紀の作曲家の『バンジョー』を弾きます」(注・カツァリスの言った言葉そのものではなく要約です)。「バンジョー」はノリの良い曲であった。技巧的にはかなりの難曲であるが、どうやらカツァリス自身が編曲した超絶技巧バージョンだったらしい。

アンコールはまだ続く。カツァリスはマイクを手にするがやはりマイクのスイッチは入らず、ホールの人3たび登場。客席から笑いが起こる。

カツァリスによる英語での紹介。「ロシアの作曲家の作品、2曲を弾きます。1曲目はプロコフィエフの(ここで客席から拍手が起こる)『前奏曲』。そして2曲目は無名の作曲家ボルケヴィチの『4分の3拍子』です」
プロコフィエフの才気溢れる曲、「前奏曲」の演奏もマジカルなテクニックで弾かれて素晴らしかったが、ボルケヴィチの「4分の3拍子」もしみじみとした味わいがあって良い。

もう終わりだろう、と思っていたが、カツァリスはまだ引き続ける。マスネの「タイスの主題による瞑想曲」弾き、いったん引っ込んだが、再登場してロベルト・シューマンの「ロマンス」を弾く。

今度こそ終わった、と思ったが、カツァリスはまだ弾く。「最後の曲(last order)です。カラスコの『アディオス(さようなら)』です」。カツァリスのユーモアに客席から大きな拍手が起こる。
「アディオス」ももちろん優れた演奏。
実に8曲、30分以上に渡るアンコール演奏であった。素晴らしいサービス精神である。

終演後、カツァリスのサイン会があり、長蛇の列が出来るが、8曲もアンコールを聴かせて貰って、さらに手に負担をかけさせるのが申し訳ないような気分になり、私一人分でも負担を減らそうと、そのまま帰路に就く。

それにしてもカツァリスは素晴らしい。演奏もサービス精神も満点だ。前から好きなピアニストの一人であったが、今日のコンサートに接して一層好きになってしまった。

 

湯浅卓雄指揮アルスター管弦楽団の演奏で、「ウェーベルン(ヴェーベルン)管弦楽作品集」(NAXOS)を聴く。
ウェーベルンというと、十二音技法を使った小難しい音楽を書いた人、というイメージが強いが、独特の神秘的な響きが印象的でもある。
寒色系の音を持つウェーベルンの音楽であるが、湯浅とアルスター管弦楽団は情熱的な演奏を繰り広げ、ウェーベルン作品の把握を容易にしてくれる。


目の疲れが酷くなったので、専用冷却シートで冷やしたり、目薬を差したりするが改善は一次的なものでまた目の調子が悪くなる。(了)

 

10月16日(月)

ショルダーバッグの肩掛けの金具が壊れてしまった。新しいものを買うことにする。繋ぎ的な役割のもので良いので一番安いものを選ぶ。安いけれどもしっかりしている。本格的なバッグは3ヶ月ぐらいしたらまた購入すればよい。


ルドルフ・バルシャイ指揮ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団の演奏で、ショスタコーヴィチ作曲、バルシャイ編曲の室内交響曲作品73a、同じく作品83aを聴く(ブリリアント・クラシックス)。いずれもショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を室内管弦楽団用に編曲したものである。
ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団は1993年創立の若いオーケストラ。
クラシック音楽発祥の地であり、トスカニーニやジュリーニ、クラウディオ・アバドなどの名指揮者、ミケランジェリやポリーニなどの名ピアニスト、イ・ムジチ合奏団などの優れた小編成アンサンブルなどを生み出したイタリア。しかしことオーケストラとなるとパッとせず、スカラ座のオケや、聖チェチーリア音楽院所属のオーケストラなどが知られる程度。この2つも世界的に一流とは目されていない。「イタリア人の気質には大編成のオーケストラは向かないんだよ」などという言い訳をする向きもあったが、いつまでも言い訳ばかりしていられないということで、1990年代にオーケストラ改革があり、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団もその時に出来た。

バルシャイは自ら編曲した作品を指揮するだけに絶対の自信を持った演奏を繰り広げる。ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ響もおそらく普段の彼らとは違う、仄暗い音を出してバルシャイの指揮に応える。それでも時に色彩豊かなカンタービレが現れるのがイタリアのオケらしい。


続いて、やはりバルシャイの指揮による「ショスタコーヴィチ交響曲全集」(ブリリアント・クラシックス)から交響曲第4番を聴く。オーケストラは西部ドイツ放送ケルン交響楽団(旧・ケルン放送交響楽団)。
ショスタコーヴィチの交響曲第4番はゲルギエフ盤やこのバルシャイ盤で何度か聴いているが、その時は音楽が上手く頭に入ってこず、難解な印象を受けた。だが今日ははっきりわかった。おそらくショスタコーヴィチ・イヤーということで彼の交響曲のライヴ演奏に接する機会が多かったためだと思われる。コンサートでは普段以上に集中力が発揮されるので、CDではわからなかったことが会場でわかるようになることも多い。
交響曲第4番は素晴らしい曲だ。これまでその素晴らしさがわからなかったのが信じられないほどである。音のボリューム、オーケストレーションの斬新さ、豪快な盛り上げと、繊細で内省的な味わい。全てよし。

 

疲れ目の状態が酷いので目薬を強いものに変える。その後、クィーンのベストアルバムを聴いたりしていたが、強力な眠気に勝てず、眠ることにする。目の状態は少し良くなったが一進一退である。
何度も目覚めるが、その度に眠気にやられる。自分で思っていたより疲れが貯まっていたようだ。(了)

 

10月17日(火)

綴ることで己の無知と醜悪さを露呈し、世界認識の薄さを晒す。4種類の文字の鏡に映る像に自覚的であるかどうか、あり得るかどうか。
仄暗い闇を身に纏い、閉ざされた瞳の壁を見つめ、発信される優雅な凶器の重さを確かめる。


目の疲れが酷く、目を閉じて過ごす時間が長くなる。
「クィーン・ザ・ベスト」、パーヴォ・ヤルヴィ指揮シンシナティ交響楽団の「プロコフィエフ 『ロメオとジュリエット』組曲第1、第2、第3番」、舘野泉の左手のためのピアノアルバム「タピオラ幻想」、アルバン・ベルク・カルテットの「ブラームス 弦楽四重奏曲第2番」を聴く。一つ一つの感想は今日は書かない。

フジテレビのドラマ「役者魂!」を見る。君塚良一の脚本だけに実験精神に溢れてはいる。でも松たか子主演でもやはり苦しさを感じてしまう。ユーモアのセンスは悪くないのだが。
しかし何歳になっても「実験、実験」ばかりでは、小澤征爾のようになってしまう。良きにつけ悪きにつけ。
90年代のテレビドラマ界をリードした脚本家が21世紀に入った途端に揃って不調に陥った。一人は自ら命を絶った。優雅な凶器に負けたのだ。彼らの著書を読んでみて思うのは、やはり年相応に年を取れていないということ。そしてそのことに無自覚なのだった。


目を閉じて想像するよりも目を開けて想像する方が易しい。読書の習慣があるからだ。しかし日本人の活字離れは止まらない。blogなどを読んでも想像力は身に付かない。そう考えるとあらゆる表現の未来は暗いということになる。(了)

 

10月18日(水)

目の調子が良くならないので眼科に行く。比較的大きな眼科医院なのだが、待合室の混んでいること混んでいること。通勤電車内のようである。こんなに目を病んだ人がいて京都は大丈夫なのかと思ってしまうほどだ。

京都は関東に比べると病院や医院が多い。というより、関東が少なすぎると言った方が適切だろう。京都などは郊外の住宅地であっても、内科、外科、整形外科、耳鼻科、歯科、眼科、心療内科、皮膚科、小児科など、あらゆる種類の医院がある。千葉は一つの住宅地の中にあるのは、内科兼小児科、外科、歯科ぐらいで、その他の病気の場合は街中まで出る必要がある。

待合室は混んでいたが、比較的回転は速く、ほどなく診療を受ける。アレルギー性結膜炎という診断。花粉症のようなものである。アレルギー用の目薬は普段から持っているのだが、今回は症状が強めだったようである。

 

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮サンフランシスコ交響楽団の演奏で、ヒンデミットの交響曲「画家マティス」と「葬送音楽」、「ウェーバーの主題による交響的変容」を聴く(DECCA)。
画家マティスとは有名なフランスの画家であるアンリ・マティスではなく、15世紀に活躍したドイツの画家マティス・ゴートハルト(マティアス・グリューネヴァルト)のこと。ルターの宗教改革に共鳴し、波乱の晩年を送ったマティス・ゴートハルトの生涯を描いたヒンデミットのオペラ「画家マティス」のための音楽を、作曲家自身がコンサート用に改めたものが交響曲「画家マティス」である。この曲はヨーロッパではとてもポピュラーであるが、日本では全く人気がないというギャップのあることでも有名である。
「画家マティス」には、レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団によるオーケストラ演奏における美の極致ともいえる超名演(ドイツ・グラモフォン)が存在するため、他の演奏はどうしても聴き劣りがする。ブロムシュテットとサンフランシスコも好演だが、音の美しさやスケール、語り口の巧さ、いずれもレニーには敵わない。とはいえ、ブロムシュテットの誠実な表現には好感を抱く。
「ウェーバーの主題による交響的変容」が一番出来が良く、サンフランシスコ交響楽団の技術の高さも光る。

 

続けて、オイゲン・ヨッフム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の「ベートーヴェン交響曲全集」(フィリップス)から、第4番と第7番を聴く。第4番はたまにアンサンブルに甘さが見られるが、立体感に富む演奏。交響曲第7番はリズムより歌を重視した演奏であるが、華やかさにも欠けていない。ヨッフムはのちにロンドン交響楽団ともベートーヴェンの交響曲全集を作っている(EMI)が、この2曲に関してはフィリップス盤の方が魅力的だ。

 

京都コンサートホールで、ダン・タイ・ソンのピアノリサイタルを鑑賞。
ダン・タイ・ソンは1958年に当時の北ベトナム・ハノイに生まれたピアニスト。彼が2歳の時にベトナム戦争が勃発。若きダン・タイ・ソンは防空壕の中で紙に書かれた鍵盤を弾くことでピアノの練習を続けたという。ハノイ音楽学校を経てモスクワ音楽院に留学。1980年のショパン国際ピアノ・コンクールで東洋人として初めて優勝し、話題となった。しなやかな音楽性を持ち味とするピアニストで、ショパン弾きとして日本では人気が高いが、欧州での評価はそれほどでもない。
1980年のショパン国際ピアノ・コンクールでは、優勝したダン・タイ・ソンよりも、予選落ちしたイーヴォ・ポゴレリチが話題を集めたということもある。ポゴレリチが本選に残れなかったことで、審査委員の一人であったマルタ・アルゲリッチは激怒。「彼(ポゴレリチ)こそが天才なのに!」という言葉を残して審査員を降り、ポーランドを後にするという事件があった。

プログラムは前半がチャイコフスキーの「四季」。後半がショパンのバラード第1番〜第4番。

チャイコフスキーの「四季」は、出版社から「月刊誌にピアノ曲を毎号一曲ずつ載せたい」という依頼を受けて書かれた全12曲からなる作品。チャイコフスキーも軽い気持ちで書いたいわれ、そのためかどうか有名曲であるにもかかわらず評価は低めで、CDも少ない。「6月 舟歌」と「11月 トロイカ」はよく知られた曲で、ピアノ小品集のCDによく入れられている。
私個人は「四季」というピアノ曲集は好きで、高校生の頃から良く聴いていた。「舟歌」や「トロイカ」の他にも「5月 白夜」などが好きである。正直言って今日は、チャイコフスキーの「四季」が全曲演奏されるというので聴きに来たようなものだ。

ダン・タイ・ソンの弾く「四季」は甘さを抑え、詩情や物語性よりも技巧を優先させたものだった。「舟歌」ではもっと歌心が欲しいし、「白夜」も幻想味に欠けるきらいがある。曲によってはテクニックを前面に出してバリバリ弾いていたが、「リストじゃないんだからそんな豪快に弾かなくても」と思う。
最後の2曲である「11月 トロイカ」と「12月 クリスマス」が良い出来だった。磨き抜かれた美音とテンポ設定がこの2曲には合っていた。


後半は、ダン・タイ・ソンの十八番であるショパン。バラード全4曲。立派なショパンであるが、聴いているうちにどうも妙な気分になる。ショパンにしては立派すぎるのだ。ショパンというと甘美な旋律とその裏にひそむ毒の絶妙なバランスが魅力の一つなのだが、ダン・タイ・ソンはそういうものには目もくれず、とにかく立派で偉大なショパンを目指している。ダン・タイ・ソンという人は生真面目なのだろう。しかし真面目過ぎると芸術もあまり面白くなくなる。日曜日に聴いたシプリアン・カツァリスも、先々週聴いたファジル・サイも遊び心と余裕があるから魅力的なのだ。

アンコールもショパンを演奏する。マズルカ作品24−1、と前奏曲第24番。クッキリとしたショパンであったが、やはりもっと余裕が欲しくなる。
ベートーヴェンを弾くならダン・タイ・ソンのスタイルは合っているが、ショパンはどうだろう。余りに真面目で潔癖だと、ショパンの、時に仄暗い情念をあぶり出すことは出来ないようにも思うのだが。(了)

 

10月19日(木)

下鴨で一仕事。しかし、10月も間もなく下旬だというのに気温が高い。

帰り道、カナート洛北で釜玉うどんを食べる。実に美味い。


ジュリアン・ラクリンのヴァイオリン、ロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団の伴奏でシベリウスのヴァイオリン協奏曲を聴く(ソニー・クラシカル)。1974年生まれの若手(もう中堅かな? ただ録音当時はまだ10代だった)ヴァイオリニスト、ラクリンは艶やかな音色を持ち味としているようで、この曲でも磨き抜かれた美音が耳に心地良い。シベリウスにはもっと素朴は表情も必要だと思われるが、それは今後に期待しよう。
ロリン・マゼールとシベリウスは相性が悪そうだが、実はマゼールは若き日にウィーン・フィルと、そして90年代にはピッツバーグ交響楽団と、シベリウスの交響曲全集を2度も完成させている。出来にはかなりバラツキがあるのが、ピッツバーグ響との交響曲第6番は驚くほど美しい演奏である。ただ、このヴァイオリン協奏曲の伴奏は大人しめでマゼールらしくないのが残念。

 

午後7時より東山区役所庁舎内にある東山青少年活動センター創造活動室で、WANDERING PARTY(通称:ワンパ)の公演「レオナール・F」を観る。作・演出:あごうさとし。
ここまではネタばれてしても観劇に支障を来さないので書くが、夏に京都でも展覧会が開かれた画家・藤田嗣治(ふじた・つぐはる。フランス名:レオナール・フジタ。1886−1968)の生涯に着想を得た作品である。
フランスで最初に認められた日本人画家である藤田は、パリ左岸のモンパルナスを拠点に活動していたが、第二次世界大戦のナチスドイツによるフランス侵攻を前に日本に帰国。アジア・太平洋戦中は戦争画を描くことで、日本軍に貢献、賛辞を得る。だが、終戦を迎えると事態は一変。藤田に戦争画を書くよう命じ、その絵を礼賛してきた人々が掌を返したように藤田の戦争責任を追及し始める。再び渡仏した藤田はフランスに帰化し、二度と日本に戻ることはなかった。晩年になって藤田は「私が日本を捨てたようにいうがそうではない。日本が私を捨てたのだ」と周囲にもらしていたという。

現代が舞台。しかしそこに第二次大戦時の空気が侵入してくる。
小劇場の作・演出を担当する東は、体調を崩し、入院している。同じ病室の隣のベッドにいるレオナール・Fという画家がいつも話しかけてくるのが悩みである…。

劇の最初に「海行かば」を流すなど狙いすぎのところが多く、表現も「生」な部分が多いのが気になる。もう少しわかり難くても大丈夫なはずだ。
軍服といいながら実はみっともない格好をしているなど、明解な作り方をしており、作り手のメッセージは良くわかる。ただ、そうしたスタンスが一方の側だけに偏っているため、奥行きが出なかったり、語りかけたいことが前に出すぎるきらいがある。もちろん、「立場は正反対でも同じような表現にしかならない」ことは示されており、相対化はされているが。
ある種の映画は、別れの場面の「感動」を煽ることで、感情に訴えようとする。それへの懐疑が示されるのだが、感動を狙った表現をしている人々が実はいかに下司であるか、そこをより強調した方が効果的だったように思う。

 

河原町三条上がるの「ラーメン赤鬼軒」で食事。hotpepper.jpのクーポンを利用、トッピングをただにしてもらう。hotpepper.jpは利用しないと損である。(了)

 

10月20日(金)

気温が高め。歩いていて、汗が目に入り、染みる。足も軽く挫く。本当に軽く挫いただけなので大したことはないのだが、余り良い一日ではない。


音楽を聴こうと思うが、CDをチェンジするのも面倒なので、昨日聴いた、ジュリアン・ラクリンとロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団の演奏で、シベリウスのヴァイオリン協奏曲ほかを聴く。
このCDのラストには、音詩「エン・サガ」が収められているのだが、妙な演奏である。マゼールの意図が今一はっきりしない。

 

午後7時より、京都コンサートホールで、大阪センチュリー交響楽団・京都特別演奏会を聴く。
午後6時ちょっと過ぎに京都コンサートホールについたのだが、ホールの南にある京都府立大学農学部農園の前で、母親ぐらいの年齢の女性に手を引かれて歩く、鶯色のセーターを着てサングラスをかけた目の不自由な青年とすれ違った。今日のソリストを務める梯剛之(かけはし・たけし)氏である。なぜ、こんな時間(今日のコンサートは午後6時開場である)に外を歩いていたのかは謎だが、あるいは演奏前にコンサートホール周辺の空気や匂いや音に触れておきたかったのかも知れない。

今日のコンサートのプログラムは、梯剛之独奏のショパン・ピアノ協奏曲第1番、ドビュッシー作曲・アンリ・ビュッセル編曲の「小組曲」、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」(1919年版)。指揮は大阪センチュリー交響楽団の首席指揮者である小泉和裕。

開演前に、ヴァイオリンとチェロの女性デュオ「こむし☆こむさ」の二人(杉江さんと末永さん)がロビーコンサートを行う。私は室内楽には詳しくないし、ノンクレジットだったので、何という曲なのかはわからなかったが、ツヤのある高音が魅力的な演奏であった。
 

隣の席は、二十代前半と思われる女性二人組。
「ミュンヘンって、どこ?」
「ドイツちゃう?」
「シンフォニーホールってどこ?」
「大阪ちゃう?」
「大阪のどこ?」
「福島。環状線の」
「大阪城の辺り?」
「どうかな?」
などというとってもビギナーな話で盛り上がっていた。
 

午後7時開演。指揮者の小泉和裕に伴われて梯剛之が登場する。
ショパンのピアノ協奏曲2曲の管弦楽部分ははいずれもショパン自身のオーケストレーションによるものだが、ショパンが管弦楽法を熟知していなかったということもあり、響かないことで知られる。
冒頭は弦楽のみによる歌で始まるのだが、京都コンサートホールの天井が高いこともあって音が全て上に行ってしまい、私が座った1階席後方には直接音がほとんど届かない。
一方でピアノの音は良く聞こえる。先日のダン・タイ・ソンのピアノリサイタルは3階席の最後尾で聴いたのだが、驚くほど音がクッキリと聴き取れた。京都コンサートホールはピアノ演奏を聴くには適しているようである。

1977年、東京に生まれ、生後1ヶ月で小児ガンにより失明した梯剛之。両親がともに音楽家だったこともあり、4歳の時にピアノを始めた。その後、ウィーンで音楽教育を受け、現在では国際的なピアニストとして活躍している。
梯の奏でる音はクリアで美しいが、鍵盤を撫でるように弾く美音タイプではなく、一音一音をしっかり弾くというタイプである。
メカニックは完璧とは行かず、音型が崩れる場面があり、ミスタッチや鳴るべき音が鳴らなかったりもする。ロマンティックな味わいにも欠けるが、時にファンタスティックな表現を見せ、ハッとさせられる。「こういう弾き方もあるのか」と感心する。

指揮者の小泉和裕は京都市の生まれ。カラヤン国際指揮者コンクールで優勝を飾り、華々しくデビューしたが、竜頭蛇尾の感は否めず、現在も大植英次や佐渡裕など関西の他のオーケストラのシェフ達に比べるとワンランク落ちるイメージがある。アンサンブルをまとめる腕は確かなのだが、表現は薄味でスケールも小さい。

京都コンサートホールの音響と、小泉の指揮が小さくまとまっているということが相まって、大阪センチュリー響はソリストの梯に押され気味であったが、管楽器は巧く、魅力的である。

梯のアンコール演奏は、ショパンの夜想曲第8番。煌めくような音が印象的な佳演であった。


ドビュッシーの「小組曲」でも管、特に木管は冴え冴えとした音を聴かせ、魅力的。弦も第1曲の「小舟にて」では、ドイツ風の重苦しい音を奏でたが、その後はこちらの耳が慣れたのか爽やかな音楽を楽しむことが出来た。

メインのストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」組曲。小泉の指揮は、抒情的な部分では雅やかで優しげな音をオーケストラから引きだし、魅せられるのだが、やはりスケールは小さく、音楽を整えるのが第一という印象は否めない。フォルテシモではオーケストラがパシーンと気持ちよく鳴るのだが、音が大きいこととスケールが大きいことは当然ながら違う。
とはいえ、まとまった演奏で、それなりに楽しむことは出来た。

アンコールは今年生誕100周年を迎えるショスタコーヴィチの「ロマンス」。気むずかしい表情の音楽が多いショスタコーヴィチであるが、この曲はタイトル通り、甘美なメロディーと優雅さ溢れる愛らしい小品であった。


メールニュースで、俳優の藤岡琢也が亡くなったことを知る。


コンサート終了後、体調が徐々に悪くなる。胃がやられているようだ。疲れもあり、このページも更新せずに取り敢えず眠る。深夜に起き、このページも更新する。(了)

 

10月21日(土)

好天に恵まれる。

今日も下鴨方面へ。昨日とは違い、比較的楽な作業であった。

 

大阪へ。午後6時よりシアター・ドラマシティで二兎社の公演「書く女」を観る。永井愛:作・演出。明治の女流作家・樋口一葉の話である。
永井愛さんは会場にいらっしゃっていて、休憩の合間に臨時サイン会なども行っていた。また客席には岩松了の姿もあった(ピッコロ劇団の演出を担当するので現在は関西にいるのだろう)。

休憩15分を含め3時間10分の大作。出演は、寺島しのぶ、筒井道隆、粟田麗(あわた・うらら)、江口敦子ほか。

障子や格子をモチーフにした巨大なセットがまずは印象的である。

樋口一葉こと樋口夏子(寺島しのぶ)が、作家・半井桃水(なからい・とうすい。筒井道隆)のもとを訪れる場面から始まる。長兄が若くして亡くなり、次兄はどこへともなく去り、姉はよそへ嫁ぎ、父親が死去。かくして若くして女戸主となってしまった樋口夏子。母と妹と三人暮らしだが、これではとてもやっていけないので小説を書くべく、半井桃水に弟子入りしたのだった…。

今では一葉の師としてしか名前の残っていない半井桃水であるが、筒井道隆をキャスティングしているだけにかなりの好人物として描かれている。
一葉が通う歌塾「萩の舎(はぎのや)」の先輩で女流作家の魁となった田辺龍子(たなべ・たつこ。筆名は田辺花圃と書いて「たなべ・かほ」。石村実伽)、一葉の親友で同じ夏子という名前であることから「い夏」と呼ばれる伊東夏子(粟田麗。ちなみは一葉は「ひ夏」と呼ばれている)、一葉に半井桃水を紹介した野々宮菊子(江口敦子)、半井桃水の妹である半井幸子(なからい・こうこ。小澤英恵)、一葉最大の理解者といわれた斉藤緑雨(さいとう・りょくう。向井孝成)、一葉の小説に最初に注目した平田禿木(ひらた・とうぼく。中上雅巳)、一葉文学の研究者となった馬場孤蝶(ばば・こちょう。杉山英之)、泉鏡花と並び称されるほどの名声を得ながら39歳で自殺した川上眉山(かわかみ・びざん。細貝弘二)など、個性溢れる人々によって織りなされる明治文壇記(それにしても読みにくい名前の人が多いな)。

生活苦に喘ぐ樋口家の人々や、文学への希望に燃える人々、また文学に敗れる人々などが真摯な眼差しで、しかしユーモアも持って描かれる。

樋口一葉の半井桃水への思い。また、その創作が「感性」や「共感」からというよりも、「業」もしくは「怨念」のようなもの(日本語には適当な言葉が見つからない。韓国語の「恨(ハン。激しい心の動きを指す)」という言葉が一番合うかも知れない)に根ざしたものなのではないか、という解釈が目新しい。

脇役陣が演技はなかなか達者ながら個性に欠けるのがウィークポイントだが、見応えはあった。永井愛の微妙にテーマをスライドさせるやり方はいつもながら巧い。(了)

 

10月22日(日)

今日は朝早くから一仕事。早く始めて早く終わる。

今日の京都は大にぎわい。昼は時代祭が、夜には鞍馬の火祭がある。


午後2時から大阪のザ・シンフォニーホールで、仲道郁代の「デビュー20周年記念ピアノ・リサイタル」を聴く。
モーツァルト、リスト、ショパンというプログラム。
 

日本屈指の人気ピアニストである仲道郁代。最近はベートーヴェンのピアノ曲の録音に取り組んでおり、丁寧な仕上がりで評価も上々である。ただ今日はアンコールも含めてベートーヴェンの曲は演奏されなかった。

まずはモーツァルトの「キラキラ星変奏曲」とピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」という、今月初めに聴いたファジル・サイのピアノ・リサイタルと完全に同じプログラム。もちろん仲道さんは変人でも天才でもないので安定した演奏を聴かせる。ファジル・サイのような強烈な個性を持つピアニストも良いが、毎週サイのようなピアノを聴いていたのでは疲れてしまう。仲道のような正統派の演奏を聴くことも大事だ。
技術は非常に高いが完璧とはいかない。プロとはいえ、毎回毎回絶好調というわけではないからこれは仕方ないだろう。ちなみに演奏のテンポはアンコールも含めて全て速めに設定されていた。
煌めくような音色が美しい。彼女のトレードマークともいうべき(?)口の中で旋律を呟く仕草も健在。そういった癖が健在である必要があるのかどうかはわからないが、癖も個性であり、それを見るのも楽しい。
トルコ行進曲ではたまにタッチが弱く感じられる箇所があったが、安心して聴ける演奏だった。
同じ曲目なので(私とピアノとの距離と位置関係もほぼ同じであった)ファジル・サイと比較しやすいが、音の透明度ではサイの方が上。というのもサイは右ペダル(ダンパーペダルという)を要所要所でしか使わなかったのだ(その分、左のソフトペダルはよく使っていた)。こういうところもグレン・グールドを連想させる。仲道郁代は正統派のペダリングであった。右ペダルを使うと音は大きくなり、表現はより豊かになるが、音が濁りやすくなる。一長一短だが、右ペダルを使わないで名演を奏でるのは難しい。

続いてリスト作品とリスト編曲作品。
まずはよく知られた「愛の夢」第3番。ロマンティシズムより技術が目立つところもあったが、優しげな表情の音の波が耳を心地良くくすぐる。
続いて、3つの演奏会用練習曲第3番「ため息」と、シューマン作曲・リスト編曲の「ミルテの花」より“献呈”。“献呈”の優雅な表情が印象的だった。


後半はオール・ショパン・プログラム。
幻想即興曲と前奏曲第15番「雨だれ」というポピュラー名曲に続き、ピアノ・ソナタ第3番が演奏される。このピアノ・ソナタ第3番が今日の演奏会の白眉であった。スケール豊かで情熱的な演奏であり、技術も構築力も抜群。穏やかなイメージのある仲道郁代だが、この曲の演奏の迫力は凄い。

最後は「英雄ポロネーズ」。かなり速めのテンポで粗い部分もあったが、迫力と説得力のある名演であった。


アンコールの演奏の前に、仲道が、20周年を大勢の聴衆(ほぼ満員であった)の前で迎えられたことを嬉しく思うという旨を述べ、涙ぐむという一幕があった。

アンコールは5曲。ショパンの夜想曲第20番(遺作)、リストの「メフィスト・ワルツ」第1番(村の居酒屋での踊り)、ショパンの「子犬のワルツ」、ロベルト・シューマンの『子供の情景』より「トロイメライ」、エルガーの「愛の挨拶」。

ショパンの夜想曲第20番の冒頭を他のピアニストとは違ってソフトに弾いたことと、「メフィスト・ワルツ」で見せた超絶技巧が印象的であった。

 

大阪に来たついでに梅田や茶屋町で買い物をしようと思い、色々な店を見て回るが、結局は文庫本1冊しか買わなかった。

 

ナゴヤドームでの日本シリーズ第2戦。中日がリードを奪うが、日本シリーズで勝ち星がないという中日先発・山本昌がピンチで金子にヒットを許し、SHINJOの好走塁もあって日ハムに逆転を許す。日ハムはその後もセギノールに一発が飛び出すなどして勝利を決定づけた。結果は5対2。北海道日本ハム・ファイターズが1勝1敗のタイに持ち込み、ホームの札幌へと戻る。


大河ドラマ「功名が辻」。啖呵を切る時の仲間由紀恵はやはり迫力がある。そういうシーンを他のドラマで何度も演じているからだろう。(了)

 

10月23日(月)

天も知る地も知る我も人も知る袖振る君を野守見ずとや


雨の一日。秋雨も一興なり。

 

パーヴォ・ヤルヴィ指揮シンシナティ交響楽団の「ラヴェル管弦楽曲集」(TELARC)を聴く。「ダフニスとクロエ」第2組曲、「亡き王女のためのパヴァーヌ」、「ラ・ヴァルス」、組曲「マ・メール・ロワ」、「ボレロ」を収録。
高貴な演奏だ。特に「マ・メール・ロワ」の儚げでしっとりとした音の作り、東洋的な旋律の処理などは出色の出来。
一方で余りにもノーブル過ぎるようにも思われ、例えば「ダフニスとクロエ」第2組曲の“全員の踊り”などではもっと熱狂的に演奏して貰いたくなる。
「ボレロ」は作曲者の指示では17分ほど、通常は15分前後で演奏されるこの曲をパーヴォとシンシナティ響は13分30秒で駆け抜ける。各楽器の表情は豊か。金管楽器など場面によってはスウィングしている。しかし、テンポが微妙に不安定だったり、トランペットが弱かったり、ラストが盛り上がらなかったり(というより典雅さを強調したいがためにわざと抑えているようで、「盛り上げなかった」という方が近いだろう)と問題も多い。
と言いながら全曲を2度続けて、「ボレロ」は3度も聴いてしまう。

 

ハンガリーが生んだ名演奏家、チェリストのミクローシュ・ペレーニとピアニストのアンドラーシュ・シフのデュオによる「ベートーヴェン チェロとピアノのための作品全集」(ECM)から、チェロ・ソナタ第1番、『ユダス・マカベウス』の主題による12の変奏曲、チェロ・ソナタ第2番、ホルン・ソナタの編曲であるチェロ・ソナタ・ヘ長調を聴く。
ミクローシュ・ペレーニは地味ながらも確かな実力で熱烈なファンを獲得しているチェリスト。来日も多く、私も何度か実演に接している。N響定期のソリストとして弾いたドヴォルザークのチェロ協奏曲は知的で、且つ情熱的な名演であった。
アンドラーシュ・シフはかってデジュ・ラーンキ、ゾルターン・コチシュとともに「ハンガリー・ピアノ3羽ガラス」と言われたピアニスト。J・S・バッハのスペシャリストとして売り出し、その後もモーツァルトやシューベルトの演奏で高い評価を得ている。
ペレーニとシフの息がピタリと合い、二人とも演奏を楽しみつつ音楽も追究するという理想的なデュオになっている。


テレビドラマ「のだめカンタービレ」を見てみる。漫画も何巻か読んでいる。いうまでもないがクラシック漫画ではなかった。
で、ドラマは先週は見ずに今週初めて見たのだが、何と千秋真一の心の師・ヴィエラ役で、チェコ・フィルのシェフであるズデニェク・マーツァル(マカール)が出ている。自社の看板アーチストを取引先であるテレビ局のドラマで宣伝しようとはさすがオクタ…、あ、これは書かない方が良いか。
ドラマの方は変な言い方だが、いわゆるテレビドラマとして見ないのが無難である。
それにしてもフジテレビはクラシックもののドラマが好きである。「のだめ」にも出演している西村雅彦主演の「マエストロ」に始まり、木村拓哉と山口智子の「ロング・バケーション」、三上博史主演の「それが答えだ!」など。

 

パソコンの液晶画面にエラーが生じやすくなった。そろそろ寿命かな。(了)

 

10月24日(火)

晴れの朝。戯曲のコピーを取る。複合プリンターにしたので自宅でコピーが出来る。

しかし天気は下り坂、夕方からは雨が降り始める。


パソコンの液晶ディスプレーは絶不調。ドライバを変えてみるが良くならず。液晶画面自体の劣化だと思われる。画面が寿命間近の蛍光灯のようにチカチカしていたかと思うと、突然正常に戻る。


DVDでアメリカ映画「心の旅」を観る。ハリソン・フォード主演作品。
敏腕弁護士のヘンリーが強盗事件で頭と胸を撃たれたことで、記憶を失う。リハビリもあって言葉や動きに問題はなくなったヘンリーだが記憶はどうしても戻らない。しかしかって自分が弁護士として担当した事件の記録を読み直すうちに、過去の自分に非人間的一面に向かい合うことを余儀なくされていく…。
タイトル通り、ヘンリーの「心の旅」を描いた映画。同類の作品がこの後いくつも作られた(「心の旅」自体も、「心の旅路」という映画のリメイクである)ため、新鮮味はないし、展開ももっとじっくり描いて欲しくなるが、それでも素直に楽しめる映画である。音楽も良い。

 

サー・チャールズ・マッケラス指揮プラハ室内管弦楽団の演奏で、モーツァルトのセレナード「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」&「ポストホルン」を聴く(TELARC)。「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は小編成ながら大柄の演奏で、快活な仕上がりになっている。普通はカットされることも多い反復も全て履行しているため、一般的な演奏時間に比べるとかなり長い。
「ポストホルン」の楽しさも抜群。少年の心を持った大人の演奏だ。


パソコンのモニターに異常発生。バックライトが切れてしまったのだ。液晶自体に問題はないので、闇の向こうに微かに文字やアイコンなどは見えるのだが、これでは仕方がない。(了)

 

10月25日(水)

取り敢えず、中古の外付けモニターを購入することにする。これで数ヶ月は凌げるだろう。

 

今日も昨日同様、サー・チャールズ・マッケラス指揮プラハ室内管弦楽団によるモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」と「ポストホルン」を聴く。音色が実に瑞々しく、耳が幸せになる。
マッケラスはヨーロッパでは巨匠扱いだが、日本では知名度が低い。こういうアーチストは一番呼びにくいのだが(逆に本場では評価が低くても日本でだけは人気のあるアーチストは呼びやすい)来日してくれないだろうか。

 

大阪へ。午後7時より、新町にある大阪厚生年金会館芸術ホールで、ドイツの映像作家・電子音楽家のアルヴァ・ノトことカールスティン・ニコライと坂本龍一のセッション「insen」を鑑賞。アルヴァ・ノトのコンピューターが作る和音に坂本龍一がピアノで即興的に音楽をつけていくという試み。すでに同名アルバムのレコーディングは終了していて、即興といってもある程度のフォルムは出来ているようだ。
開演20分ほど前から下手袖に白髪に黒服の男性がそっと現れ、会場の様子を窺ってはスッと消えていくというのが何度か見られた。坂本龍一だ。即興によるセッションということもあり、客の入りが気になるのだろうか。
坂本が心配するまでもなく客席は満員。
大きな拍手に迎えられて坂本とアルヴァ・ノトが登場する。
坂本のピアノにはセンサーが取り付けられており、坂本が音を出す毎にバックモニターに光や映像が現れたり変化したりする仕組みになっている。
ピアノの蓋は取り払われていて、坂本はピアノの弦をメスのような金属片で奏でたりノイズを出したりという特殊奏法を見せたりもした。


アルヴァ・ノトの作るノイジーな和音に坂本のリリカルなピアノが絡む。音楽によって変化する映像も興味深いが、目に悪そうでもある。

ラストの曲はコンピューターノイズに「戦場のメリークリスマス」のメロディーをピアノで乗せるというもの。客席からは大きな拍手。

基本的には実験音楽であり、音楽の面白さよりは可能性を追求したものだが、たまにはこうしたライヴも楽しい。


坂本はアンコールには余り乗り気ではなかったようだが、アルヴァ・ノトことニコライが「もっとやろうよ」という風に促したので、特別に演奏が行われる。予定外だったので映像はなし。音のみのアンコールとなった。


プロ野球日本シリーズは北海道日本ハムが中日を下し、3勝1敗として日本一に王手を掛ける。(了)

 

10月26日(木)

DVDで台湾映画「シュウシュウの季節」を観る。「ラストエンペラー」の婉容皇后役で知られる女優、ジョアン・チェンが監督した作品。
中国に吹き荒れた文化大革命がもたらした悲劇を描く。
1975円、四川省・成都。文秀(愛称:シュウシュウ)は下放(青年を農村での労働に従事させるという政策)に出される。牛乳工場で優秀な労働者と認められたシュウシュウは、今度は一人で放牧を体験するよう言われる。ともをするのは金というチベット人の男。金はかっては乱暴者だったのだが、若い頃に事件を起こして宮刑に処され、現在は男ではなくなっている。しかしそうしている間に北京での政情に変化がある。文革は終わり、迎えは来ず、シュウシュウは高原に取り残されてしまう…。

海外でいくつもの賞を得ている映画であるが、正直言って好きになれない。人間の醜さを描くための演出なのだろうが、B級ポルノ映画のような場面があったり、質が高いとは思えない。ラストも予想通りのものであった。

 

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ライプツィッヒ・ゲバントハウス管弦楽団の演奏で、シンフォニア・セレナータと交響曲「世界の調和」を聴く(DECCA)。交響曲「世界の調和」は旧東独の指揮者ヘルベルト・ケーゲルの名盤を聴いており、気に入った曲だが、ブロムシュテットはケーゲルに比べると音の切れ味、曲の追求ともに甘く、やや不満である。ただ、ライプツィッヒ・ゲバントハウス管弦楽団の音は何といっても魅力的だ。


体調が余り良くないので寝ていることの多い一日になる。

 

シベリウスの同時代人であり、ある時は良き理解者、ある時はライバルともなった指揮者、ロベルト・カヤヌスの指揮するシベリウスの交響曲第3番と第5番、『カレリア』組曲より「間奏曲」と「行進曲」を聴く。オーケストラはロンドン交響楽団、交響曲は1932年の、「カレリア」は1930年の録音である。当然ながら録音技術はまだ低く、ノイズも盛大に入っている。またロンドン交響楽団のアンサンブルの精度も現在に比べるとかなり劣る。鑑賞用というよりは記録として貴重な録音である(フィンランディア・レーベル)。
ロベルト・カヤヌス(1856−1933)はフィンランドの指揮者・作曲家で、シベリウスの管弦楽曲を最初に紹介した人物として、またヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団の創設者としても知られている。
シベリウスの最初にして最大の理解者であったが、ヘルシンキ音楽院の教授のポスト就任を巡ってはシベリウスとはライバルとなり、音楽院はシベリウスの教授就任をほぼ決めていたものの、カヤヌスはロシアのコネクションを使って逆転に成功、ヘルシンキ音楽院の教授に就任する。このことでカヤヌスとシベリウスの関係はかなり悪化したが、その後、和解。カヤヌスは各地のコンサートでシベリウス作品を積極的に指揮し、シベリウスの音楽の素晴らしさを世界中に知らしめた。
この録音でもオーケストラの技術は劣るが、カヤヌスの共感豊かで自信に溢れた音楽を聴き取ることが出来る。

 

日本シリーズ第5戦。於・札幌ドーム。中日の先発は川上憲伸、日ハムの先発はダルビッシュ有という第1戦と同じ顔合わせ。
3連敗で後のない中日が1点を先制するが、日ハムが5回裏1死3塁で金子がスクイズを決め同点に追いつく。更に6回裏、セギノールに勝ち越しの2ランアーチが飛び出し、北海道日本ハムが日本一に向かって大きく前進する。
日本ハムの先発ダルビッシュは自己最速の153キロをマークするなど抜群の出来で、中日に追加点を許さない。
稲葉にもホームランが飛び出して4対1とした日ハム。最後はマイケルがしっかり締めて、44年ぶりの日本一に輝く。
今日が最後の公式戦となる新庄剛志の目には試合終了直前から涙が溢れていた。
ファイターズは北海道に本拠地を移してからわずか3年での優勝である。(了)

 

10月27日(金)

朝、中古の液晶ディスプレイが届き、再びインターネットの閲覧が出来るようになった。もっともディスプレイの故障といってもバックライトの故障なので、画面は暗くなるが液晶自体は生きており、目をこらせば闇の向こうに微かに文字などは見えてもいた。だが、そんな暗中模索のようなことを続けているわけにもいかない。外付けディスプレイを購入する方がパソコンを修理に出すより場合によっては値段も安く付き、何日も待つ必要もない。新品のディスプレイは数万円するので、中古にした。


更新できなかった分の日記を書き、更新する。

 

フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラの「シューベルト交響曲全集」(フィリップス)が廉価盤となって再発されたので購入する。
ブリュッヘンはもともとはブロックフレーテ(リコーダー)の名手として知られた人だが、80年代に古楽器のアンサンブルである「18世紀オーケストラ」を結成。以後、指揮者としての名声も高めていく。18世紀オーケストラと録音したモーツァルト、ベートーヴェン、そしてこのシューベルトなどは名盤の誉れも高い。
しかし、ブリュッヘンも最近の動向はどうなっているのだろう? 久々に新譜が発売されると思ったら1995年にライヴ収録されたものであり、2002年の来日公演以降の情報は余り入ってこない。
考えてみれば、ブリュッヘンに限らず、クリストファー・ホグウッドやトレヴァー・ピノックなど、古楽器のオーケストラを組織して一時代を築いた人々の現状は伝わってこない。古楽器のみでなく現代のオーケストラを積極的に指揮していたニコラウス・アーノンクールなどは大活躍を続けているが、古楽器オンリー若しくは古楽器偏向の人は録音に恵まれないこともあって一時の勢いは失われているようだ。

さて、ブリュッヘンの「シューベルト交響曲全集」から今日は第1番と第4番「悲劇的」を聴く。
交響曲第1番はシューベルトが16歳の時に書かれたもの。当時、シューベルトが学んでいた寄宿制学校の学生オーケストラのために書かれ、試演されたと思われる。いわば若書きだが、ブリュッヘンは鮮やかなオーケストラ捌きに加え、アクセントを強調するなど巧みな指揮で、この交響曲を聴き映えあるものにまで高めている。
交響曲第4番「悲劇的」もアグレッシブな演奏であり、例えばムーティとウィーン・フィルのふくよかな演奏の対極を歩む。旋律の歌い方もストレートであり、ウィーン情緒に溺れることはない。そのためこの交響曲の持つ悲劇性がよりダイレクトに聴く者の心に届く。

 

ロベルト・カヤヌス指揮のシベリウス交響曲第1番ほかを聴く。オーケストラは単に「交響楽団」とのみ記されていて、どこの楽団なのかは明記されていない。
ずいぶん荒っぽい演奏である。オーケストラのメカニックにも問題があるし、カヤヌスの一直線の解釈も問題だ。これではシベリウスの魅力は伝わらないと思うのだが。シベリウス本人もこの録音を耳にしたと思われるのだが、どういう感想を持ったのだろうか。


風邪気味なので早めに眠る。(了)

 

10月28日(土)

今日も風邪気味なので家で過ごす時間が長くなる。


ミシェル・プラッソン指揮トゥールーズ・キャピトル管弦楽団の演奏で、ベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」(ヴィオラ独奏:ジェラール・コセ)、歌劇「ベンヴェヌート・チェルリーニ」序曲、序曲「ウェイバリー」を聴く(EMI)。
「イタリアのハロルド」はヴィオラ独奏つきという珍しい交響曲。描写音楽またはヴィオラ協奏曲的な一面も持つ曲である。
曲自体はそれほど面白いものではないが、その特異なスタイルゆえ、曲名は比較的有名である。
プラッソン指揮のトゥールーズ・キャピトル管弦楽団は、過度な洗練を避けた手作り風の音楽を奏でている。名手ジェラール・コセのヴィオラ独奏も聞きものだ。
音楽自体はフィルアップとして収録された序曲2曲の方が派手で聴き映えがする。

昨年、ジャン・フルネが引退し、先月にはアルミン・ジョルダン(スイス人)が亡くなったことで、フランス系若しくはフランス音楽を得意とする名指揮者もどんどん姿を消している。プラッソンもデュトワ(スイス人)も若くない
最近になって、ベルトラン・ド・ビリーという1965年生まれの若いフランス人指揮者が登場して人気上昇中であり、アルミン・ジョルダンの息子であるフィリップ・ジョルダン(1974年、チューリッヒ生まれ)もウィーン・フィルの定期に招かれるなど好評、といったところが良いニュースだろうか。

 

トン・コープマンの弾く、J・S・バッハのオルガン曲集(小フーガト短調ほか)を聴きながら考え事。

 

「世界・ふしぎ発見!」はモーツァルトを特集。生誕250周年を迎えるモーツァルトであるが、没後200年(1991年)の時のようなモーツァルトブームは日本では起きていない。というより、1991年が異常であったのだが。
で、内容は…、何だ間違いだらけじゃないか。モーツァルトファンからの苦情が数多くTBSに来るんじゃなかろうか。(了)

 

10月29日(日)

秋晴れだ。出かける予定もあったのだが遠出であり、風邪が治りきっておらず体力的にも弱っているので諦める。
 

ミシェル・プラッソン指揮トゥールーズ・キャピトル管弦楽団の演奏でベルリオーズの幻想交響曲と序曲「ローマの謝肉祭」、序曲「海賊」を聴く。
幻想交響曲はプラッソンの個性が発揮された演奏で、丁寧な仕上がりを見せる。トゥールーズ・キャピトル管弦楽団も伸びやかでいかにもフランスの地方オーケストラといった感じの独特の色彩を発揮している。しかし幻想交響曲の演奏にはプラッソンやトゥールーズ・キャピトル管の個性は必ずしもプラスに作用せず、グロテスクな迫力は抑え気味で、上品な演奏に終始している。幻想交響曲の一面を捉えてはいるので良い演奏なのだが初めてこの曲を聴く人には推せない。ファーストチョイスにはもっとドラマティックな演奏が良いだろう。古くはミュンシュ&パリ管(EMI)、最近の演奏ではパーヴォ・ヤルヴィ&シンシナティ響(TELARC)などがドラマティックな名演だ。


ユージン・イストミンのピアノで、シューベルトのピアノ・ソナタ第17番ニ長調を聴く。今月18日に「クラシック復刻館 紙ジャケットシリーズ」の1枚としてソニー・クラシカルから世界初CD化、国内盤としてはLP時代も含めて初めて発売されたもの。
輸入盤しか出ておらず、それも長く廃盤だったということもあり、これまでほとんど注目されてこなかった演奏であるが、ある理由によりCD化への要望が高まっており、今回国内盤としてCD化された。
ユージン・イストミン(1925−2003)はユダヤ系のアメリカ人ピアニスト。6歳で公開演奏会を開くなど神童ぶりを発揮。確かな技巧と豊かな音楽性を持つピアニストだったが、世界にはその手の神童や名ピアニストは数多くいるため、ソロピアニストとしては比較的地味な存在に終始。むしろ室内楽における名手として名高かった。
さた、イストミンの弾くシューベルトのピアノ・ソナタ第17番ニ長調であるが、味のある演奏である。細部まで目を良く配り、単純な音型の繰り返しにも手を抜かず、しっかりと自分の個性を刻印している。
構成的には問題のあるシューベルトのピアノ・ソナタ第17番であるが、イストミンの演奏には「面白く聴かせてやろう」という欲を出さなかったために、全体が均されており、そのことで逆に面白い演奏を成し遂げてしまったという感がある。
詩情溢れる部分もただ自分の感性に忠実に、しかしシューベルトの音楽を尊重して、という態度で誠実に弾いている。そうしたイストミンの姿勢が「感性の作曲家」であるシューベルトの音楽によく馴染んでいる。

 

1ヶ月に1冊も本を読まなかった人は、日本人の人口の半分を占めるということだが、別に驚くに値しない。本を読む人の割合がもっと多かったら自分が無知であることや想像力の欠如を自慢するような人はいないはずだ。読める読めない以前に、それが恥ずかしいことだとわかるはずだから。

 

ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の「ドビュッシーアルバム」を聴く。おなじみ、ソニー・クラシカルの1000ちょっとで手に入るシリーズに含まれているもの。「海」、「夜想曲」、「牧神の午後への前奏曲」などを収録。
想像したとおりの豪華な音色によるドビュッシー。素朴さや詩情にはやや乏しいが、オーケストラ音楽を聴く醍醐味は十二分に堪能させてくれる。
オーマンディは生前と没後の評価の落差が激しい指揮者の一人。オーマンディに限らず、ショルティなど、職人気質の指揮者には没後、大幅に評価を落とす人が多い。
ただ私はオーマンディという指揮者は好きで良く聴いている。といっても、私がクラシック音楽を聴き始めた頃に丁度オーマンディは亡くなっている(1985年没)ので、私は現役の指揮者としてのオーマンディは聴いたことがない。すでに物故者となった彼しか知らないのである。オーマンディの音楽は今聴いても魅力的である。生前はもっと評価が高かったのだから、その人気は相当なものであったのだろう。
 


大河ドラマ「功名が辻」と「オーケストラの森 東京交響楽団」を続けて見る。


今日は考え事が上手くまとまらない。早めに眠ることにする。(了)

 

10月30日(月)

今日も良い天気。
 

DVDで日本映画「69 sixtynine」を観る。1969年の長崎県佐世保市を舞台とした村上龍の自伝的小説を宮藤官九郎の脚本で映画化。村上龍は「宮藤官九郎の脚本なら」と特別に映画化を許可したという。監督は李相日。妻夫木聡、安藤政信主演。

村上龍の分身であるケンを妻夫木聡が演じているという時点で「違うだろ」と思うが、クドカンさんの例によってスピーディーな脚本により観やすい映画には仕上がっている。それだけという気がしないでもないが。なお、かなり強烈な下ネタのシーンがあるので、その手の映画が嫌いな人は観ない方が良いと思う。

 

リッカルド・ムーティ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、スウェーデン放送合唱団&ストックホルム室内合唱団、パトリシア・パーチェ(ソプラノ)、ジェームズ・モリス(バス)ほかによる、モーツァルトの「レクイエム」(EMI)を聴く。1987年の録音。
名声の高いスウェーデンの2つの合唱団を起用した演奏である。
ムーティの指揮は予想通りドラマティックであるが、冒頭の合唱などはやや威圧的に聞こえる。こちらが古楽器と古典的歌唱法によるモーツァルトのレクイエムに慣れてしまっているということもあるのだろうが、ムーティの楽譜原理主義や作曲家を崇拝する癖が必要以上に曲を大仰にしてしまった感は否めない。それでも弦、管、合唱や独奏の各パートの動きが鮮明に聴き取れ、ムーティの音楽性の高さは示されている。


鴨川の河原で一人で稽古をしてみる。「sagan blog」にも書いたので詳しくは述べないけれど、沈み行く太陽を目にしながら朗読するのもいいものだ。傍らを過ぎていく人々からは確実に変人視されるのでお勧めはしませんが。

 

シプリアン・カツァリスのピアノで、「モーツァルト・トランスクリプションアルバム」を聴く。ピアノ21という聴き慣れないレーベルのCD。モーツァルトの管弦楽団やオペラのアリアなどをピアノ用に編曲(トランスクリプション)したものが集められており、中にはカツァリス自身が編曲したものも含まれる。
どうしてもピアノでモーツァルトの管弦楽曲を演奏したかった、というのではなく、「余興」として作られたアルバムであり、カツァリスの名人芸を楽しむためのCDだ。カツァリスもリラックスして演奏を楽しんでいる様が聴き取れる。しかしモーツァルトへの限りない愛情も同時に感じられる。
とにかく楽しいアルバムである。一応、国内仕様盤であるが、CDショップでの購入は困難だと思われるので、ネット経由での購入をお薦めする。


1時間以上、朗読を続けたため疲れてしまった。早めに眠る。(了)

 

10月31日(火)

10月も今日で終わり。

ハローウィンだというけれど、私はハローウィンと聞いて真っ先に服部君の事件を連想してしまうので楽しめないな。

 

昨日同様、シプリアン・カツァリスの弾く「モーツァルト・トランスクリプションアルバム」を聴く。実に楽しいCD。でも楽しいのもカツァリスが名手だからだろう。トランスクリプション(編曲物)は平凡なピアニストが弾いても粋な演奏にはならないことが多い。


ユベール・スダーン指揮メルボルン交響楽団の演奏で、ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」を聴く(豪ABC)。1986年の録音である。
現在、東京交響楽団の音楽監督を務めるオランダ人指揮者ユベール・スダーンは1946年生まれだから、40歳頃の演奏だ。調べてみると、ユベール・スダーンは1985年から1988年までメルボルン交響楽団の第1客演指揮者を務めていたことがわかった。
1986年当時、メルボルン交響楽団の音楽監督の地位にあったのが岩城宏之。岩城とメルボルン響は武満徹の管弦楽曲集を録音している。
また、メルボルン響はホセ・セレブリエールの指揮でホルストの「惑星」ほかをASVに録音。NAXOSにも故ジョン・ランチベリーとプロコフィエフの「ポーターとオオカミ」ほかを録音しており、いずれのCDでも高い音楽性を見せていた。
ということで期待したのだが、録音が悪いのか、それともオーケストラの力不足か、おそらくは両方が原因だと思うが音の鳴りが悪い。第1楽章もスムーズに開始するが、音の巨大な伽藍を作ることが出来ない。第2楽章のように抒情的な楽章はそれなりに聴かせるが、ブルックナーにおいてオーケストラのパワーが不足しているというのは致命傷である。


音羽川上流まで出かけて、朗読を行う。今日は昨日とは違い、傍らを通り過ぎる人はごく少数。次回も場所を変えて野外稽古を行う予定。


スザンヌ・ヴェガのアルバム「孤独(ひとり)」(A&M)を聴く。冒頭に置かれた「トムズ・ダイナー」という曲はコーヒーのCMで使われていたはずだ。どのコーヒーメーカーのCMかは忘れてしまったが、曲と映像がよく合っていたような記憶がある。


NHK「クイズ日本の顔」。来年3月でオーボエ奏者としては引退する宮本文昭がゲスト。今後は教育者、指揮者、プロデューサー、作曲家など音楽に関わる仕事全てを行っていきたいという。もともとオーボエではなく、クラシック音楽に惚れ、楽器よりもまず音楽ありきという人だっただけにオーボエだけでは飽き足らなくなったのかも知れない。ただ指揮者に関しては、以前は宮本は音楽雑誌(指揮者についての特集号だった)のインタビューで、「指揮者というのは(演奏家の立場から見ると)自分では音を出せない可哀相な人ですね」と発言していたはずなのだが。本音ではなかったのだろう。宮本のオーボエの師であるヘルムート・ヴィンシャーマンも、今ではJ・S・バッハ作品の指揮者として有名だ。
オーボエ(oboe)の語源はフランス語で「haut(オー。高いという意味)」、「bois(ボワ。木という意味)」とのこと。そうか、高木さんだったのか。


明日に備えて早めに眠る。(了)

 

 2006年11月