「海辺で」

 
水平線の遠さに

立ちすくむのは怖れからではない

何かが色あせるのを怖れるからではない

戻りたくて戻れないいら立ちが

靴の中に紛れ込んだ砂のようにたまっていく

「ここには全てがある」と

耳元で誰かが告げる

差し出した手を優しく舐める波の舌

脳細胞を青く染める立体的な潮騒

「ここ以外には何もない」と

目の前のあなたが誘う

鴎の群れが海面を幾重にもスライスしていく

砂の上に誰かが書いた文字が水平線へと走る

宛先のない夢の破片を弔うかのように

あるいは行方知れずの憂いを雲へと昇華させるために

波と空の間

月の船の向こう

果たされなかったイメージ達の呼び声

ボクに出来るのは

あなたの手を取ること

指を握ること

何も聞くことなく　何も語ることなく

戻らぬものを思うこと

２００５／５／１