「躑躅回廊」

躑躅が咲いている　その先には見覚えのある回廊

一人の男がボクを見ている　目深にかぶった帽子の下の窪んだ目が世界を吸い込もうと狙っている

回廊を歩くと水が漏れてくる　上を見ると死んだばかりの若い女性の体がいくつもいくつも天井に並べられている

その顔の蒼白さ

時計は１１時過ぎを指している　光の加減からしておそらく昼なのだろう　だが時折訪れる暗闇がボクの視覚を危うくさせる

「躑躅には毒があるのです。ごく稀にですが、誤って躑躅の花を食べた犬が死にます」

床のあちこちに切り取られた指が落ちている　ここで何かがあったのだ　何かが

泉に出ると水面に躑躅が浮かんでいた　水の鏡の反映でその正確な数はわからない

泉の底から　招くような歌が聞こえる　ボクは君を愛している　だが君は誰だ？

ボクは泉に顔を浸す　息が出来なくなるまで　水の香りを感じながら　目を閉じて

誰かの手がボクの背にそっと乗せられた

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００５／５／１６