「月の渚」

一、静かの海

意味が押し寄せる　注がれる無数の視線が　波よりも速く　存在を仕留めようとする

どこから派生したのか　わからないままに　そのコードは　意識を固着させる

足下を洗う優しげな波　その正体は　征服者の甘い言葉

空位である王の座は　思考の静寂さによって埋められる

沈黙は金ではない

静かの海の渚の平安は　海の底に沈む　無数の屍によって保証されている

在／非在をめぐって投げられたつぶてが　海面を切って跳ねていく

宣言するなら今だ

二、豊かの海

海には毒が紛れている　脳を麻痺させる毒

その毒が見せる幻覚が　正体を身に纏い　築き上げた楼閣を砂上に晒してしまう

ここは見知らぬ浜辺　だが既視感を人に与える

それはシアンとマゼンタとイエローによって作られたビーチであり　小舟が係留されているように見える

しかし水平線の向こうは滝だ　中世の地球に我々はいるのだ

豊かさを望むなら　外化された脳を再び体内へと摂取し　言葉をずらしながら　何かを見出す必要がある

この豊饒さを　血塗られた豊饒さに　とどめてしまわぬように

沖へ出よう　内なる海の沖へ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００５／５／２４